履正社、難敵破り甲子園V 磨いた筋力 強打の支え
2019年の全国高校野球選手権は履正社(大阪)の春夏通じて初の優勝で幕が下りた。春の選抜大会で完膚なきまでにたたきのめされた星稜(石川)の剛腕、奥川恭伸を打ち崩し、喜び倍増の戴冠となった。
8月22日の決勝。大会屈指の好投手の奥川と履正社の強力打線の対決とあって、平日ながら甲子園球場には4万4千の観衆が集まった。
先制したのは星稜。二回に岡田大響の適時二塁打で1点を挙げた。直後の三回、履正社は4番井上広大が中堅左に3ランを放ち、すぐさま逆転した。
チームが奥川にわずか3安打、17三振を喫し完封負けした春の選抜大会1回戦で最後の打者になったのが井上だった。この日は一回の好機で高めのスライダーに見逃し三振。「低めは捨てて高めを打て」と岡田龍生監督に改めて指示され、三回は「空振りでもいいから振ろう」と同じ高めのスライダーをものの見事にはじき返した。
七回に追い付かれた履正社は八回、野口海音と岩崎峻典が適時打。先発清水大成の後を受けて七回途中から登板した岩崎は八、九回と走者を出しながらも抑えて逃げ切り、マウンド上にナインの歓喜の輪ができた。
近年はシーズンに入ると、冬場のウエートトレーニングで蓄えた筋力の貯金がみるみる減る傾向にあった。それではもったいないと岡田監督は今年、春以降もウエートの時間を多く確保した。その結果、今大会は全6試合で2桁安打をマークし、チーム打率は3割5分3厘。選手の特性から盗塁やヒットエンドランはせず、小技は送りバントくらい。打って打って打ちまくる、小細工無用の強力打線で頂点まで駆け上がった。
打力の陰に隠れがちだったが、基本に忠実なスタイルも光った。決勝で星稜は安打を放った打者走者が二塁を欲張って憤死したり、けん制球に飛び出してアウトになったりとミスが目立ったのに対し、履正社は無失策で走塁ミスは皆無。打撃でもボール球の変化球を振るケースが少なかった。この隙のなさも勝因だったといえる。
大阪市生まれの岡田監督は兵庫・東洋大姫路高で甲子園大会に出場し、日本体育大、鷺宮製作所でもプレー。大阪・桜宮高のコーチを経て1987年、履正社の監督に就任した。部員11人から始まり、長い苦心の末、監督生活33年目で栄冠にたどり着けたのは「卒業生や保護者の協力があったから」。自身の元から巣立っていった多くの教え子に思いをはせつつ、快挙を成し遂げた選手たちを見て「夢のよう」と感慨に浸った。
(合六謙二)