災害ロボを使いこなせ 負傷者確認や消火活動も
災害対応にロボット技術を活用しようとする動きが盛んになってきた。人が立ち入れない危険な場所でも活動でき、災害現場での状況判断や人手不足の解消にも役立つ。人命救助や消火活動などでの活躍が見込まれるが、専門家は「効果を十分に発揮するには、使いこなす人材の育成が欠かせない」と指摘する。
「How can I help you?(どうされましたか)」。東京・大手町のオフィスビルで30日朝、防災訓練が行われた。大規模地震が発生し、ビル内で外国人を含む多数の負傷者が出ている想定。警備用のロボットが負傷者役の外国人に英語で声を掛け、最寄りの医療機関を紹介した。
ロボットは丸みを帯びた白いボディーで高さ約1.3メートル。普段はビル内の巡回警備などを担当しているが、スピーカーや周囲を360度見渡せるカメラなどを搭載しており、災害時は防災センターから遠隔操作して、ビル内にいる負傷者の把握や案内に活用できる。
訓練を行った三菱地所の担当者は「ロボットの活用で、人手が足りない災害直後もより細やかなサポートができる」と説明する。
公的機関もロボット技術の活用に積極的だ。総務省消防庁の研究機関「消防研究センター」は2014年度から5年間かけ、ロボット4台が連携して自動で消火活動を行う「スクラムフォース」を開発した。飛行型と走行型の2台が現場の状況を確認した後、放水砲ロボットとホース延長ロボットの2台が現場に近づき、ホースを水源まで伸ばして放水活動を始める。
開発のきっかけは11年3月の東日本大震災で、千葉県市原市で発生した石油コンビナート火災。消防隊員が現場に近づけず鎮火に10日間かかった。19年4月から同市消防局で訓練を重ね、実用化に向けた課題の洗い出しを進めており、同センターの天野久徳特別上席研究官は「使い勝手を良くして大規模火災への対応力を高めたい」と話す。
倒壊家屋や土砂などに埋もれた人を鋭い嗅覚で見つけ出す災害救助犬にもロボット技術の活用が試みられている。
東北大の研究者らが開発したのは、小型カメラや全地球測位システム(GPS)を搭載した犬用ベスト。19年6月から訓練で使用するNPO法人「日本レスキュー協会」(兵庫県伊丹市)によると、従来は人が犬の動きを読み取り、埋もれた人の位置を推測していた。ベストを着せることで犬の動線や周囲の状況が詳しく分かるといい、担当者は「客観的な状況判断や早期の救助につながる」と期待する。
東北大の田所諭教授(ロボット工学)は「ロボット技術は日々進歩しており、実験的には様々なことができるようになってきた。ただ、使いこなすには相応のスキルが必要。現場での活用を促すため、多くの人が訓練を受けられる環境づくりが求められる」と話す。
「防災週間」初日の30日、各地で地震などを想定した訓練が行われた。
東京都港区の大型複合施設「六本木ヒルズ」での訓練には森ビルの社員約700人が参加。真夏に大規模災害が起こり、近隣住民や買い物客らが逃げ込んできた想定で、参加者が熱中症を防ぐ経口補水液を水や塩、砂糖などで試作した。
同社が暑さ対策を訓練に取り入れたのは今回初めてで、参加した同社社員の杉本敬哉さん(33)は「思った以上に手軽に作れ、飲みやすかった」と笑顔。1年後に東京五輪・パラリンピックを控え、広報担当者は「暑さに慣れていない外国人観光客も多く来日する。逃げ込んできた人をしっかり守りたい」と話す。
さいたま市の障害者支援施設「しびらき」では約110人が一斉に身を守る行動をとる「シェイクアウト訓練」を実施した。
緊急地震速報の録音音声が流れると、施設利用者がリビングルームに集合して身をかがめ、職員が防火扉を閉めたり出口を確保したりした。施設の担当者は「災害時に利用者がパニック状態になっても最低限の動きを取れるよう、今後も訓練を重ねたい」と話した。
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