香港デモ長期化、経済に打撃 8月の新規上場1社どまり
香港のデモの長期化で、現地の金融市場や企業活動に深刻な影響が出ている。8月の新規上場は1件にとどまり、アジアを代表する国際金融センターに影を落とす。ホテルの宿泊料金が3分の1になる事例も出るなど、観光や小売りの落ち込みも目立つ。デモ参加者と政府の対立は出口が見えず、アジアのハブとして存在感を高めてきた香港の地位が揺らいできた。
6月に始まった香港の「逃亡犯条例」改正案をきっかけとする大規模デモは27日に80日目となった。2014年の「雨傘運動」(79日)を超えて、なお収束の兆しが見えない。
香港は18年の新規株式公開(IPO)が世界1位だった。それが8月は27日時点でわずか1社。情報会社の大智慧によると、約6年ぶりの低水準になる可能性がある。
6月以降、不動産開発の易商紅木やビール最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブのアジア子会社などが大型上場を取りやめた。香港の代表的な株価指数、ハンセン指数は8月に入って8%下落した。相場の下落で企業の様子見が強まる。資本市場の活況度合いを映すエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)も8月は1~7月の月間平均の2割以下に落ち込んだ。
8月中旬に香港国際空港にデモ隊が押し寄せて大量の欠航が出て以来、金融界の警戒度は一気に高まった。ある投資銀行は「物理的な危険を否定できない」(幹部)として一時的に往来を控えた。香港政府によると、空港が機能を再開した15~20日に香港を訪れた人は昨年の同時期と比べて半数に落ち込んだ。
8月中にも上場するとの観測があった中国電子商取引大手、アリババ集団は秋以降に仕切り直す方向だ。上海の政府系シンクタンクは「中国を代表する企業であるアリババが上場すれば香港を利する」と指摘する。中国政府は過激なデモを厳しく非難しており、政治の風向きも含めて先行きが読みづらくなっている。
観光や小売りにも深刻な影響が出ている。「香港を取り戻せ」。17日、飲食店や住宅が集まる九龍半島のホンハム地区にデモ隊の声が響いた。同地区はかねて中国本土からの団体観光客を乗せた大型バスによる渋滞や騒音が問題視されていた。抗議活動の矛先は香港政府だけでなく、中国本土客にも向かっている。
団体客が消え、急激な収益悪化に見舞われる飲食店やホテルが相次ぐ。本土客に人気の「マルコポーロホテル香港」は通常1泊3000元(約4万5000円)程度の宿泊費がオンライン予約サイトで1000元を割った。観光業の業界団体、香港導遊総工会の黄嘉毅理事長は「デモによりピークのはずの7、8月は『厳冬期』に変わった」と危機感を強める。
香港を訪れる旅行客の8割は中国本土客。米中貿易戦争による中国経済の低迷にデモの影響が加わり、宝飾品や化粧品などの売り上げが落ちている。
こうした状況が続けば、雇用情勢にも影響が出る可能性がある。不動産大手の長江実業集団(CKアセットホールディングス)は傘下10ホテルの従業員に、8月後半から9月までに計3日間の無給休暇を取得するよう通達した。米マリオット・インターナショナルの「JWマリオットホテル」も8~9月に優先して有給休暇を消化するよう指示した。
香港は歴史的に中国と世界を結ぶ結節点の役割を果たしてきた。中国企業や中国旅行客が香港を避ける動きが強まれば、香港の存在が一段とかすみかねない。(香港=木原雄士、上海=張勇祥)