米GF、TSMCを特許侵害で提訴 iPhoneなどの米輸出差し止め請求
米保護主義意識、「米国生産守る」
【台北=伊原健作】半導体受託生産世界3位の米グローバル・ファウンドリーズ(GF)は26日、同業最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を特許侵害で提訴したと発表した。米アップル製品などを対象に、TSMC製品を搭載する機器の米国などへの輸出の差し止めを求めている。トランプ米政権の保護主義に同調し、競合のTSMCを揺さぶる狙いとの見方がある。
TSMCは27日、「全く根拠のない訴訟で、失望している」との声明を出した。27日の株価は前日から小幅に上げ、提訴による悪影響はみられない。
GFによると、同社が保有する半導体製造などに関する計16件の特許を侵害したとして、26日にTSMCを米国とドイツの裁判所に提訴した。特許を侵害しているTSMC製品について、両国の輸入停止を求めている。GFの特許を違法に使って生産された製品価値は数百億ドル(数兆円)規模だとし「TSMCに巨額の損害賠償を要求する」という。
GFは同時に米アップルのほか、米半導体大手エヌビディア、クアルコム、ブロードコムなど、TSMCに半導体生産を委託する多数の顧客も提訴した。
TSMCが生産した半導体は主に中国の工場に輸送され、アップルのスマートフォン「iPhone」などの最終製品に組み込まれ、米など世界市場に供給される。仮にGFの主張が通れば、スマホやパソコン、サーバーなど膨大な機器が米独市場に供給できなくなり、顧客は半導体の製造委託先の切り替えを迫られる。
GFは米などでの技術開発に多額の資金を投じてきたとし、訴訟の目的は「米国や欧州の製造基地を守るためだ」と強調した。大手シンクタンク、台湾経済研究院の劉佩真氏は「米中摩擦が激化するなかで、米政府を巻き込んでTSMCを揺さぶる意図が見える」と話す。
一方、訴訟は手続きに時間がかかる。台湾のある業界関係者は「TSMCは高度な特許を堅固に積み重ねている」とし、GF側が勝利するとの見方は広がっていない。
GFは2017年にも中国や欧州の規制当局に対し、TSMCが独占的地位を乱用しているなどとして調査を求めた。競合のTSMCに揺さぶりをかけたが、現時点で進捗は明らかになっていない。
半導体の製造では技術革新にかかるコストが膨張している。GFは半導体の性能向上のカギを握る回路線幅の微細化で遅れ、18年には最先端の7ナノ(ナノは10億分の1)メートル品の開発から撤退した。技術競争は巨大な資金力を持つTSMCと韓国サムスン電子による2強の争いに絞られた。
ただ半導体は人工知能(AI)や次世代高速通信規格「5G」などの技術革新のカギを握り、市場の成長期待が大きい。下位勢も生き残りに必死で、TSMCなど上位勢への突き上げが激しくなる可能性がある。