V字回復DeNA 固定観念とらわれぬラミレス采配
シーズン序盤の勢力図は、今とはずいぶん異なるものだった。特に不振が目立ったのがDeNA。4月16日から10連敗を喫する間に最下位に落ち、5月中旬には借金が11まで膨らんだ。メディアではラミレス監督の休養説が取り沙汰される事態に。あといくつか負ければ、本当に途中退任につながっていたかもしれない。
それが今では堂々のAクラス。あの頃、フロントがこらえきれずラミレス監督に引導を渡していたら、どうなっていたか。未来に何が待っているかはわからないものである。
見事にチームを復調させたラミレス監督を見ていて感じるのは、外国人選手への信頼が厚いことだ。同じベネズエラ出身のロペス、プエルトリコ出身のソトらとよくコミュニケーションを取り、プレーしやすい環境づくりに努めている。やり方によっては外国出身監督による外国人選手の起用は「優遇」と受け取られかねない。そうなれば、ただでさえ異国で窮屈な思いをしている選手が余計に肩身の狭い思いをする。そうならないよう適度な距離感で接し、選手が試合に集中できるよう気遣いをしている。
固定観念にとらわれない采配も光る。7月15日、開幕から4番で使ってきた筒香嘉智を2番に据えてファンを驚かせた。ただ、ソトを長く2番で起用してきたラミレス監督にはもはやオーソドックスな用兵。自身がプレーした米大リーグではすっかりおなじみになった強打者の2番起用は、DeNAの特徴の一つになった。
筒香に2番を打たせるようになってから、投手を9番でなく8番に置くスタイルを再び採るようになった。投手より出塁の確率が高い野手を9番、1番と並べることで、2番筒香に第2打席以降で好機を提供しやすくする計算が働いている。こうなると実質的にクリーンアップと変わらない。データを重んじるラミレス監督ならではの巧みな采配といえる。
監督としてあるべき姿
2番に強打者を据えるスタイルは巨人の原辰徳監督も採用し、坂本勇人をその任に就かせている。バントや右打ちなどの小技ができる選手を2番に置くことが常識とされてきた球界にあって、常識的でない手法を採るのは勇気が要ることだ。ただ、あえてしなくてもいいことをするのはある意味、監督らしいと思う。小技にたけた2番打者にミスが出ても責められるのはその選手。だが、強打者を2番に置いて失敗すれば、「非常識なことをするからだ」と監督がたたかれる。結果が伴わなかったときに批判が自身に向かうようにしている2人には、監督としてあるべき姿を感じる。
4番を任されていた選手が2番を打つことで打撃が小さくなるのでは、と危惧する声もあるが、そんな心配は無用。監督が起用の狙いをしっかり伝えて「バントはしなくていいよ」「やることはクリーンアップと変わらないんだよ」と説明すれば済む話だ。
今年の巨人は原監督の復帰に加えて、首脳陣にフレッシュな人材が加わった。宮本和知・投手総合コーチと元木大介・内野守備兼打撃コーチだ。芸能界の水が合っているように見えた2人だが、今や立派に指導者の顔つきになった。2軍のコーチの役目が若手に技術を教えることであるのに対し、手取り足取り教えてもらう必要のない選手がそろう1軍のコーチは雰囲気づくりが主な仕事。その点、明るい2人はうってつけといえる。
優勝に向けた雰囲気づくり
シーズンが佳境に差し掛かってきた今、雰囲気づくりは優勝に向けて重要な要素になる。1軍の選手が持つ高い技術を存分に発揮してもらうためには、何よりもチームのムードが良くないといけない。コーチはもとより、まずは監督が明るく振る舞い、自身が批判の矢面に立つ覚悟を見せ、どんと構える。トップが少々のことでは動じない姿勢を見せることで、選手は「この人についていけば間違いない」と安心し、プレーに集中できる。
そうして求心力を高めてきたのが原監督とラミレス監督。打力の高いチームを築き上げたという共通項もある。その2人が率いる巨人、DeNAと優勝争いを繰り広げているのが広島というのが面白い。打力では劣るが、機動力や小技を使って接戦をものにする力は先の2チームをしのぐ。原監督、ラミレス監督ほど陽気ではない緒方孝市監督がセ・リーグ4連覇に向けて、ここからどう雰囲気づくりをしていくかも興味深いところだ。3強がしのぎを削る様相のセの優勝争い。日々の勝敗のほかに、各チームのムードに注目してみるのも楽しい。
(野球評論家)