アフリカに起業熱 IoT農業やトラック版ウーバー
最後のフロンティアといわれるアフリカでいま、起業熱が高まっている。インターネット決済やドローンの技術を生かして農業や物流、ヘルスケアなどで新たなビジネスが広がる。一気に技術革新が進む現象は「リープフロッグ(カエル跳び)」ともいわれ、日本のベンチャーキャピタルも投資を始めた。
ケニア西部の町、ケリチョ。紅茶工場で3月、2017年に設立されたキャップアグリの実験が始まった。農家がおさめる茶葉の量をデジタル機器で計れば、「農家は納入量を上限にいつでもお金を受け取れる」。共同創業者のスティーブ・ムエマ氏はこう話す。
■基幹産業の農業を変革
紅茶はコーヒーと並ぶ重要産業で、約60万の小規模農家がある。お金の受け取りには「たとえば自宅から10キロメートル離れた銀行へ出かける必要がある」とムエマ氏。すぐ現金をもらえるからと、安値で買い取る業者に茶葉を売るケースが多い。
キャップアグリはあらゆるモノをネットでつなぐ「IoT」を農業に持ち込んだ。基盤となっているのは、他社が実施している電子決済。携帯電話を活用する。同国の17年のネット銀行の利用比率が日本の2倍近い約60%ある背景には、この電子決済の普及がある。
シリコンバレーならぬシリコンサバンナ――。ナイロビはこう呼ばれる。デロイトトーマツグループによると南アフリカのスタートアップは1600社を超え、いま、南アを追ってケニアやナイジェリアなどで新興勢が育ってきている。
■アプリでつながる物流、交通
アフリカで競争が激しくなる分野のひとつは物流だ。ナイジェリアのコボ360は「トラック版ウーバー」といわれる。トラック運転手と、商品をトラック輸送したい企業をアプリで結ぶ。「スイスのネスレやドイツポストDHLグループも顧客で、西アフリカで事業を広げている」(日本貿易振興機構=ジェトロの中東アフリカ課)
「全土への展開を目指す」と語るのはケニア同業、センディのアロイズ・メシャック社長だ。「アフリカは物価に占める物流費が先進国より3倍は高い」。荷主と運転手の間に仲介業者が何社も介在しているからで、そこに商機がある。
アフリカの人口は約12億人で、主な国は年間所得3千ドル(約32万円)以下の貧困層が7~8割。このため金融や物流の仕組みが整わなかった。これを逆手にとる起業の動きが目立つ。背景に電子決済やドローン、人工知能(AI)といった複数の技術進歩がある。政府などが支援を競い始め、アフリカ全体の起業支援の拠点は16年の2倍にあたる600カ所を超すまで増えている。
情報メディア「ウィートラッカー」によると、アフリカの新興企業による世界からの資金調達額は18年に7億2600万ドル(約770億円)で、17年の3.6倍だ。サムライインキュベート(東京・港)はルワンダに拠点を設けた。ケップル(東京・渋谷)は日本企業から資金を調達して、3~5年で数十億円規模の投資をする計画だ。
それでもアフリカでは資金の需要に対して供給が足りないと指摘されている。欧米勢が投資しているものの、現地に投資家が少ない。会計担当者など通常の会社運営に欠かせない人材も含め、ヒトとカネの供給がアフリカの今後を左右する大きな要因だ。
■日本企業の協業増える
日本企業がアフリカ市場の開拓に向け、現地のスタートアップ企業と協業するケースが増えてきた。
豊田通商は22日、アフリカで革新的なモビリティーサービスや先進技術を展開するスタートアップに投資するため、9月にフランスで投資会社を設立すると発表した。アフリカ全土の自動車事業のネットワークを生かし、相乗効果を狙う。
ヤマハ発動機は7月、二輪車による荷物配送サービスのウガンダ企業、クーリエメイトと協業すると発表した。ヤマハ発が配送システムを築き、二輪車も使ってもらう。事業者の二輪車調達を支援する金融の仕組みもつくる考え。
ジェトロによると、アフリカに進出している日系企業は約500社という。中国企業は1万社に及ぶともいわれる。カエル跳びの中で生まれるビジネスモデルの逆輸入もにらみながら、欧米企業も含めた競争が激しくなっている。
(鈴木健二朗、山田遼太郎)