「ボルト伝説」誕生の瞬間 2008年北京五輪
100メートルのゴールをほぼ真横に見下ろす記者席からは、身長1メートル96と短距離走者としては規格外に大柄なウサイン・ボルトがこちらを向き、胸をたたきながら「どうだ」と語りかけているように見えた。
2008年北京五輪の陸上男子100メートル決勝、2位以下に0秒20以上の大差をつけたボルトが9秒69の世界新記録。約2カ月半前に自らが打ち立てた9秒72の世界新を塗り替えただけでなく、人類初の9秒6台に突入する衝撃のタイム。単なるスポーツの偉業にとどまらない、人類史において未来永劫(えいごう)語り継がれるであろう「ボルト伝説」誕生の瞬間だった。
先天的な脊椎側湾症の影響で故障発症の恐怖と常に向き合い、100メートルの世界記録を9秒58まで進化させた。「世界を射止める」という願いも込めた弓矢を射るポーズも世界中の人気に。母国ジャマイカの陸上界も人ごとではすまなかったドーピング問題にも熱心に立ち向かったクリーンなアスリートとしても愛され、17年ロンドン世界選手権での敗戦を最後に引退した。