金高騰、中銀が存在感 ロシアや中国が脱「米ドル依存」
上期購入量最高ペース 6年ぶり高値
【ニューヨーク=後藤達也、伴百江】高騰する金の買い手として世界の中央銀行の存在感が目立っている。2019年上期の中銀の金購入量は上期として1971年以降で最高ペースだ。米ドル依存を脱却しつつ、準備資産の保全を図る目的で、ロシアや中国、ポーランドなど新興国が活発に購入している。世界的な市場の混乱を受けて、先物市場でもファンドなどの買いが集まり、6年ぶりの高値を付けた。買い手の層の広がりが金価格の高騰につながっている。
金の業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、19年上期に世界の中銀は計374トン(約170億ドル)の金を買い増した。上期として金・ドル兌換(だかん)制度が廃止された1971年以降で最高だった18年を上回るペースだ。
中銀の金購入量は宝飾品などを含むすべての金需要(2323トン)の16%に達し、価格形成への影響力は増している。
この半年で最も増やしたのは100トン近く買ったポーランドで、保有量をほぼ倍増させた。ポーランド国立銀行は金を重要な資産と位置づけ、「金融の安定性をしっかり守るよう準備資産を築いている」(グラピンスキ総裁)。このほかロシアが半年で94トン購入したほか、中国は同74トン増やした。中国は7月にさらに10トン買った。
中国やロシアなどは外貨準備の米ドルの代替資産として、金の保有を増やしている。米中対立が激しさを増すなか、ドルの先行きは不透明とみて、資産をドル以外に分散する動きだ。
米中対立をきっかけに国債に資金が向かい、世界的に長期金利が急低下した。日欧など世界でマイナス金利が広がっており、長期保有すると損失が出る国債が少なくない。金には利息が付かないが、中銀は準備資産を保全する対象として金に目を付けている。
こうした中銀による構造的な金需要と並行して、先物市場では、投資マネーの短期的な買いが加わった。金先物価格は約6年4カ月ぶりの高値圏にある。世界的に金利が下がる中で、金が代表的な安全資産として脚光を浴び、投資マネーが集中している。
米調査会社EPFRグローバルによると、金に投資する世界のファンドへの資金流入額は6月以降に急増した。8月1~7日には16億8600万ドルと週間で約2年半ぶりの資金が流入した。「世界の中銀が相次いで利下げし、金ファンドへの資金流入が急増した」(EPFRのキャメロン・ブラント調査部長)
金ファンドは、金を裏付け資産として持つ上場投資信託(ETF)や金の先物に投資するファンドなどがある。こうした金ファンドは実際に金を購入するより手軽でコストも安い。世界のETFが裏付けとして保有する現物残高は7月末で約2600トンと約6年ぶりの高水準となっている。個人投資家のほか、年金基金や保険会社の一部も運用資産の多様化のため金のファンドに投資する例も増えており、投資家層が広がっている。
投機的な動きも活発だ。米シカゴ・マーカンタイル取引所での投機筋の金の買越残高は13日時点で約440億ドルと5月末と比べ4倍に増えた。世界経済への不安が強まるなか、市場では「金はドルや米国債よりも安全だとみる投資家も出ており、マネーの逃避先になっている」(米金融機関)との声がある。
WGCは「金融市場の先行き不透明感や世界的な金融緩和を背景に金への投資需要は続く」とみている。
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