リクナビ問題、データ購入企業の情報管理に甘さ
東京エレクトロンも新たに判明
就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が「内定辞退率」の予測を販売した問題で、購入企業が次々に判明している。企業の責任は職業安定法と個人情報保護法に沿った手続きを経たかが焦点だ。学生優位の売り手市場の中、各社は「選考の合否に使っていない」と違法性を否定するが、情報管理に丁寧さを欠くとの指摘もある。
15日、半導体製造装置大手の東京エレクトロンもデータを購入していたことがわかった。購入がわかったのは8社目で、他の購入企業と同様に「選考の合否判断に使っていない」と説明した。
リクナビは2018年以降、独自に算出した辞退予測データを38社に販売していた。根本匠厚生労働相は、購入企業も個人情報の扱いが適切だったかの調査対象になるとの認識を示している。
法的な焦点は2つある。まず注目されるのは、データの購入そのものが職業安定法に抵触する可能性だ。
同法は採用する労働者の個人情報を本人の同意なく外部から集めることを原則禁じる。ただ労働法制に詳しい今津幸子弁護士は「購入データを選考に使わない限り違反には問えない」と指摘し、8社の説明が正確なら問題ないとみる。リクナビも「合否に使わないと各社が確約している」とし、他の購入企業も違法ではないと主張している。
次の問題は、個人情報保護法に照らして適正だったかだ。各社とリクナビのデータのやり取りを細かくみると、保護法に抵触するリスクが残る。
各社は予測データの購入に先立ち、自社が持つ応募学生の氏名などの個人情報を、分析用としてリクナビに渡していた。保護法は個人情報の外部提供に際し本人の同意取得を義務付けている。応募学生の同意がなければ、事前提供が同法違反となる可能性がある。
この点に関し、リクナビは「各社からは業務委託としてデータを受け取っていた」とし、問題なかったとする。業務委託での外部提供は、保護法が例外的に同意を不要としているからだ。
だがIT(情報技術)関係の法務に詳しい杉浦健二弁護士は「リクナビの持つデータと組み合わせた分析に使われていれば『委託の範囲を超えた』とみなされる恐れがある」と指摘する。一般的に委託とはデータの形式の整理や配送など簡単な作業が対象になる。ただ各社とリクナビで交わされた委託契約の詳細は明らかになっておらず、実際に違法性があったか断定するのは難しい。
法的な問題をクリアしても「説明不足」との指摘は根強い。多くの購入企業は、予測データの対象になった学生への具体的な対応を決めておらず、対象人数も非公表だ。
学生優位の売り手市場が続き、優秀な人材確保を目指す企業にとって内定辞退率の予測データは使い方次第で活用の道が開ける。有望な内定者に手厚く接し、辞退の発生に備えた機動的な採用補充も可能になるからだ。
人事の現場では、データや人工知能(AI)の活用による効率化が進む。数万通のエントリーシートをAIに「下読み」させるなど、人手だけの選考より精密な採用活動を目指す取り組みもある。雇用のミスマッチが解消し、経済の活性化にもつながる。
しかしデータの扱いを巡る消費者の不信が深まれば、企業がデータ活用をためらう雰囲気が広がりかねない。データを使いこなすためには、データの持ち主との信頼関係を築くことが前提になる。リクナビ問題は、データ経済の進展に企業の姿勢が追いついていない課題を投げかけている。(平本信敬、伴正春)
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データ資源は21世紀の「新たな石油」といわれる。企業や国の競争力を高め、世界の経済成長の原動力となる。一方、膨大なデータを独占するIT(情報技術)企業への富と力の集中や、人工知能(AI)のデータ分析が人の行動を支配するリスクなど人類が初めて直面する問題も生んだ。
連載企画「データの世紀」とネット社会を巡る一連の調査報道は、大きな可能性と課題をともにはらむデータエコノミーの最前線を追いかけている。
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