世界遺産・下鴨神社でPV ラグビーW杯決勝を観戦
ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の開幕(9月20日)まで1カ月あまり。盛り上げに一役買おうと、関西のラグビー関係者が大会最終日の11月2日、世界遺産の下鴨神社(京都市)で決勝のパブリックビューイング(PV)を実施することが決まった。
同志社大や京都産業大のOBらをメンバーとする「京都パブリックビューイング実行委員会」が8月7日、京都市内で記者会見した。実行委員長を務める元神戸製鋼の杉本慎治氏は「京都は開催地にもキャンプ地にもなっていないが、何かレガシーを残したいと考えた」と実施への思いを語った。
下鴨神社はラグビーと浅からぬ縁がある。1910年、旧制第三高等学校(現京都大)の学生が慶応義塾の学生に手ほどきを受け、関西で初めてラグビーに触れた場所が下鴨神社の境内の「糺(ただす)の森」。ここには「第一蹴の地」の石碑があり、関西を中心にラグビー関係者が必勝祈願に訪れる。2017年には京都迎賓館(京都市)でのW杯組み合わせ抽選会の実施に合わせ、昭和20年代に取り壊されるまで蹴鞠(けまり)の神様の先祖「神魂命(かんたまのみこと)」をまつっていた「雑太社(さわたしゃ)」が、新たに「ラグビーの神様」をまつる社として石碑のそばに再興された。
今回、この雑太社の前がPVの会場となる。発光ダイオード(LED)パネルを組み合わせた大型スクリーンを設置し、約500人分の座席を用意する。
設営や放映に掛かる総経費790万円のうち、約300万円をクラウドファンディングで募集する。1口1万円で、先着約300人をPVに招待。残りの約200席は寄付に応じた企業関係者やインバウンド(訪日外国人)に割り当てられる。観戦特典が不要な人向けに、オリジナルのお守りなど記念品のみを付与する5000円、3000円のメニューもある。8月13日に専用サイト(https://camp-fire.jp/projects/view/188527)で寄付の募集を始めた。実行委の公式サイト(https://mitate.kyoto/kpv/)でもPVの詳細を紹介している。
実行委員長の杉本氏は京都・伏見工業高(現京都工学院高)、同志社大、神戸製鋼で故平尾誠二さんとプレーしてきた。W杯の日本招致に尽力した2学年上の平尾さんが、大会を見ることなく16年に死去した無念が、杉本氏ら実行委メンバーをPVの企画立案に駆り立てた。杉本氏は「京都で平尾さんと、平尾さんを愛するファンと一緒にW杯を見たい」と話す。
開催経費を上回る寄付の応募があった場合は、超過分を全額、京大iPS細胞研究所に寄付する。全身の筋肉が次第に衰えていく難病「運動ニューロン疾患」のため45歳で亡くなった南アフリカの世界的SH、ユースト・ファン・デル・ベストハイゼン氏が生前に設立した「J9基金」の連携機関がiPS細胞研究所で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法の開発に役立ててもらう。同研究所所長の山中伸弥教授もラグビー経験者で、平尾さんと深い親交があったことでも知られる。
今回、PVの会場に下鴨神社が選ばれたのは、関西のラグビー関係者にとって聖地ともいえる雑太社を後世に引き継ぐにあたり、「存続に向けた支援の基盤をつくる狙いもある」と実行委の庄司英生事務局長は説明する。
その下鴨神社は17年5月、一足早くW杯の"前祝い"に沸いた場所でもある。京都迎賓館での組み合わせ抽選会に先立ち、参加各国・地域のラグビー関係者が下鴨神社で伝統の蹴鞠を体験した。京都市在住で下鴨神社との関係が深く、世界中のラガーマンが集うのに一肌脱いだ坂田好弘・関西ラグビー協会会長は、今回のPV実施に向けても尽力した。「組み合わせ抽選会が行われた京都で決勝のパブリックビューイングが実施されるのも何かの縁。ありがたい」
実行委がうたうPVのスローガンは「世界遺産で世界最高峰の試合を」。決勝が行われる11月2日は試合会場の横浜国際総合競技場はもちろん、厳かな雰囲気が漂う下鴨神社も最高潮の熱気に包まれることだろう。
(合六謙二)