技巧派の大型左腕・弓削 楽天先発陣を支える
何とか勝率5割を割ることなく、パ・リーグの上位争いに食らいついている楽天。昨季最下位からの上積みは効果的な戦力アップによるものだ。フリーエージェント(FA)移籍の浅村栄斗はもちろん、新外国人のジャバリ・ブラッシュは4番に座り、アラン・ブセニッツは勝ちパターンの一枚としてブルペンを支える。(記録は12日現在)
忘れてはいけないのがルーキーの面々だ。ドラフト1位、辰己涼介の中堅守備は一級品で脚力も魅力たっぷり。2位の太田光は、嶋基宏に次ぐ捕手の座を堀内謙伍と争う存在になっている。6位の渡辺佳明も本職の内野にとどまらず、時に外野にも入り、巧みなバットコントロールで勝負強さを発揮している。そしてここに来て存在感を増しているのが4位入団の弓削隼人(25)である。
身長193センチ、体重105キロの大型左腕。シーズン前からそのサイズとスリークオーター気味の腕の位置が低いフォームから、「和製ランディ」と称された。米大リーグの最優秀投手賞、サイ・ヤング賞を5度受賞した身長2メートルを超える左腕ランディ・ジョンソンに引っかけたものだが、弓削の投球スタイルは「本家」とは違う。ランディが歴代2位の奪三振を誇る球威十分の力投派だったのに対し、弓削は技巧派、軟投派。直球は140キロ少々。だがこれを逆手に取ったように、それほど球速に差のないカットボールが効果を発揮する。チェンジアップやカーブでもストライクが取れるほか、時にクイックモーションも使って打者を翻弄する。
一躍名を売ったのが2試合目の登板だった7月30日の日本ハム戦(札幌ドーム)。初回、先頭の西川遥輝に単打を許したが、併殺で切り抜けると、あとはすいすい。四回以降は無安打、六回からは1人の走者も出さずに2安打1四球。わずか101球でプロ初勝利を完封で飾った。同じ日本ハムが相手だった4月4日のプロ初登板は、1失点ながら7安打を打たれ、五回1死で降板。それ以来の1軍のマウンドに「最初は緊張したが、次第に打たせてとる自分のペースに持って行けた。(初登板の)借りを返せてよかった」。興奮した様子も見せず、投球と同様ヒーローインタビューも淡々とまとめた。
巧みな配球で西武打線も翻弄
真価が問われた次の登板も文句なしだった。日本ハム以外とは初対戦となった西武戦。またも初回、先頭の秋山翔吾に二塁打されたものの、その後内野ゴロ3つで抑えると、あとは危なげなかった。故障を抱えていた中村剛也や源田壮亮を欠き、6番以降は迫力不足の、本来の西武打線ではなかった。しかも楽天打線が四回までに7点を挙げて弓削には余裕の試合展開。だがそれを差し引いても打者の裏をかき、フルスイングさせない投球は見事だった。無駄な四球を出すこともなく、自分のテンポをキープして相手打線を翻弄し続けた。
7回を投げ終えて87球。八回に追加点をもらって10-0となり、さあ2試合連続完封。と思いきや、八回は久保裕也がマウンドへ。試合後「まだ投げられるかなと思ったけれど……」と笑う弓削。だが、平石洋介監督は「1年間投げたことがあれば別だが……。そこ(連続完封)がすべてじゃない。きょうだけでなく、まだまだ次がある」。
則本昂大が開幕前に右肘を手術し、7月9日に復帰したもののここまで2勝2敗。防御率は2.67ながら、その球はまだ本来の切れに欠けるようで、1人に要する球数が増えてしまい、まだ最長7回しか投げられていない。岸孝之も開幕戦で足を痛め、7月には体調を崩して再び戦線離脱し、12日に復帰したばかり。楽天の誇るダブルエースが乗り切れないからこその、先の平石監督のコメントになるのか。まだ登板3試合で20回1/3とはいえ、防御率は驚異の0.44。先発陣の台所事情が厳しい中、突如現れたこの新人左腕の安定感は首脳陣にも頼もしく映っているようだ。
(土田昌隆)