ミスしたら笑顔で挽回 メジャーV渋野のメンタル術
編集委員 串田孝義
全英女子オープンで日本人2人目のメジャー制覇をなし遂げた20歳、渋野日向子の今季のゴルフを端的に示すデータがある。「バウンスバック率1位」だ。
日本女子プロゴルフ協会(LPGA)のホームページに記載された説明はこう。「ボギーかそれより悪いスコアとしたホールの直後のホールで、バーディーかそれより良いスコアを獲得する率」。若干の違いはあるが、ボギーを打った後にすぐバーディーを取り返すスコアの復元力を示すデータといえば大筋合っているだろうか。
日本ツアーの2017年のバウンスバック率1位は申ジエ(韓国)、18年は鈴木愛。単にスコアがいい選手というより、やはり勝負強さを感じさせる顔ぶれだ。勝負強さといえばパット巧者とイメージがダブる気もする。
昨年のプロテストに合格、ツアールーキーの渋野は今季、クラブ契約が同じ鈴木のパッティング練習を日ごろから目を凝らして観察して学び、時に金言をもらってきた。そのうちの一つが「ボールの赤道を打ちなさい」だったとうれしそうに明かしたこともある。
ただ、パッティング技術の向上があるにせよ、渋野の今季ここまでのバウンスバック率26.0563は2位の河本結の23.6686を大きく引き離す出色の数値。昨年1位だった鈴木の22.2222と比べてもシーズン途中とはいえちょっと驚き。ミスしてもすぐに挽回してみせる、いわば「反攻のスイッチ」を心の中で自在に操る力とは一体なんだろうか。
首位で出た全英女子の最終日、3番で4パットのダブルボギーが先行しても最終的には立ち直った。ミスを引きずらないのだ。メンタルの強さ、といえばそうだが、それではあまりに漠としすぎている。全英女子を東京都内のスタジオで観戦、テレビ解説をした岡本綾子プロの指摘が興味深い。
「渋野選手はソフトボールで投手をやっていたので、一つの失投を引きずったらチームのみんなに迷惑をかけて、チームワークもとれなくなる経験と学習をしている。ゴルフだけをしてきた選手との違いをそこに感じる。私にもそういうところがあった」
同じソフトボール出身という親しみを込めた分析だが、複数の競技を経験するマルチスポーツの利点を明確にとらえたコメントに納得させられた。一球一球、気持ちを切り替えていく習慣は投手で培われた習性か。また、海外メディアから「スマイリング・シンデレラ」と称されたあのはじける笑顔もチームメートと常に声を掛け合い、励まし合う団体球技で育まれたプレースタイルなのだと気付かされる。
■笑顔が反攻のスイッチオン
8歳でゴルフと一緒にソフトボールを始めた渋野は中学時代は野球部に入り、男子の中に女子ひとりで頑張った野球少女。団体球技が苦手でゴルフを始めた選手が比較的多い日本のゴルフ界で、醸し出すムードが確かに異なる。
全英女子で試合中にもかかわらずギャラリーと一見無邪気にハイタッチを交わしたのも、初出場の無欲ゆえというより、仲間と一致団結、観客までも味方につけて戦う団体競技のプレースタイルに、ゴルフという個人競技における重圧との向き合い方を自然に見いだしていたのかもしれない。笑っているときこそ実はつらく孤独だったともいえそうだが、渋野にとっては笑顔がまさに反攻のスイッチオンの瞬間だったのだ。