海賊版対策、実効性欠く 警告表示「困難」
総務省の海賊版対策に関する有識者会議は5日、報告書をまとめた。漫画などの海賊版サイトへの接続時に警告画面を表示する対策について、利用者の同意を得ずに実施することは「困難」と結論づけた。強制力のあるブロッキング(接続遮断)は批判が強く、即効性のある対策はまとめられなかった。特定サイトへの接続を制限する端末側の対策を推進する。
導入の可否を検討したのは、海賊版サイトを閲覧しようとする利用者に「海賊版サイトです。本当にアクセスしますか」などと警告画面を表示する「アクセス警告方式」と呼ばれるしくみ。総務省が5月に2千人を対象にアンケート調査したところ、警告画面が出れば接続を思いとどまるとの回答が9割を超えた。
通信会社が利用者のアクセス先を検知する必要がある。利用者から事前に同意を得ておかなければ憲法が保障する「通信の秘密」を侵害する。通信会社が契約約款を変更すれば全利用者の同意を得たとみなせるか、それとも各利用者から同意をとる必要があるかが焦点だった。
総務省のアンケート調査では、海賊版対策を目的にアクセス先を常に監視されることを「許容する」という回答は5割に満たなかった。報告書は約款変更だけで「ユーザーの有効な同意があると考えることは困難」と結論づけた。実施には、通信会社が各利用者にメールなどで個別に意向を確認する必要がある。
同省の谷脇康彦総合通信基盤局長は報告書を受け「個別許諾のかたちでどこまで効果があるか実証していく。アクセス警告方式は断念しない」と述べた。年内にも一部の通信会社と組んで警告画面を表示するサービスを始めるが、どこまで利用が広がるかは不透明だ。
今回まとめた報告書では、特定サイトへの接続を制限するソフトやアプリをパソコンやスマートフォンに設定する「フィルタリング」を推進することを盛り込んだ。フィルタリングは、通信の秘密を侵害する恐れはない。
出版9団体でつくる出版広報センターの試算によると、利用者を誘導する最大手の「リーチサイト」経由でダウンロードされる海賊版ファイルは1カ月に260万件にのぼる。海賊版サイト「漫画村」の関係者が7月に逮捕されたが、新たなサイトの開設もあり深刻な被害は続いている。
政府の知的財産戦略本部は2018年6月、海賊版対策を議論する有識者らの検討会議を設けた。違法サイトの閲覧を強制的に止めるブロッキングを可能にする法整備をめぐって委員の意見が対立した経緯がある。
ネット時代にあった漫画や書籍、映画などの著作物保護のルール作りは難航している。総務省の有識者会議の一人は「決定的な対策はない。地道に利用者の理解を広げるべきだ」と語る。