「イニエスタ獲得に背中押された」 サイバー藤田社長
フリーマーケットアプリ大手のメルカリがサッカーJ1鹿島アントラーズの経営権を取得するなど、IT(情報技術)業界からのスポーツビジネス参入が活発化している。
その先兵と言えるのが楽天だ。同社はプロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスを運営するほか、J1ヴィッセル神戸の運営も手掛ける。2018年にはスペインのFCバルセロナで活躍した、世界的に著名なイニエスタ選手を30億円を超えるとされる年俸で獲得し、サッカー界に大きなインパクトをもたらしている。
その楽天が、自社イベント「Rakuten Optimism 2019」で「スポーツビジネスの未来」と題したパネルディスカッションを2日に開催した。モデレーターを務めた楽天の三木谷浩史会長兼社長は冒頭、「スポーツには地域振興や教育的な意味もあるが、経済的にも大きなインパクトがある。18年のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会にイタリアは出場できず国民は大いに落胆したが、それは単に出場できないだけでなく、サッカーがイタリア経済全体の3.5%を担っているという経済上の理由もあった」と話した。
ネット配信とスポーツの親和性高い
ディスカッションには、18年にJ2のFC町田ゼルビアを買収した、サイバーエージェントの藤田晋社長らが登壇した。
三木谷氏から買収の理由を聞かれた藤田氏は、「メディアがかつてのようにテレビ放送一辺倒ではなくインターネット配信が普及したことによって、スポーツのコンテンツ価値が高まっている。実は我々は、過去に東京ヴェルディの経営参画に失敗した経験があり、Jリーグへの再参入を模索していた。そうした中、ヴィッセル神戸がイニエスタ選手を獲得したというニュースを目にし、なんて素晴らしいお金の使い方だと思った。正直、それに背中を押されて経営参画を決めた」と話した。
サイバーエージェントは無料のインターネットテレビ「Abema(アベマ)TV」を運営し、スポーツでは日本フットサルリーグ(Fリーグ)などの試合を配信している。
「町田ゼルビアの経営に参画してから、試合をする陸上競技場に実際に行ってみてびっくりした。駅から遠くて不便な場所にあり、これは大変だと思った。でも、例えばここでイニエスタ選手がプレーをして、それをAbemaTVで放送できたりしたら多くの人が観るだろう」(同氏)。
「ネット配信とスポーツの親和性は高い。AbemaTVでは、大相撲を幕下から配信しており、全取組を流すことができる。世界からも観られる。もし、Jリーグの外国人枠が撤廃されたら、海外から多くの視聴があるだろう。町田を選んだ理由は、世界に通用するブランドである東京を拠点にしていること。世界から試合を観てもらえるようなチームにしたい」(藤田氏)
「eスポーツにはスポンサーつきやすい」
サイバーエージェントの子会社CyberZ(サイバーゼット、東京・渋谷)は、eスポーツ大会「RAGE(レイジ)」も運営する。三木谷氏にeスポーツのインパクトを聞かれた藤田氏はこう答えた。「eスポーツは運動ではないものの、ゲームの競技性という意味ではスポーツといってもおかしくない。競技人口が多い分、たくさんの人が試合を観てくれる。経済圏にはゲームメーカーが多く存在し、フットサルのFリーグなどに比べるとスポンサーもつきやすい」。ビジネス的な観点でeスポーツには可能性があるとした。
三木谷氏は、次世代通信規格「5G」のスポーツビジネスへのインパクトも尋ねた。藤田氏は、「5Gはスポーツを含むエンターテインメント全般に追い風になる。今後は人工知能(AI)が導入されることによってスポーツはもっと面白くなる。一言で伝えきれないほどの可能性がある」とした。
最後に三木谷氏は、「今後はスポーツの国際化によって、単純にリーグが盛り上がるだけでなく、日本経済が活性化されるだろう。海外から日本を訪れてスポーツ観戦をしたり、5Gで新しい観戦形態が生まれたり、eスポーツを通じてそれまであまりスポーツに関心がなかった子供たちが見るようになったり。日本にとってスポーツというコンテンツには大きなチャンスがある」とディスカッションを締めくくった。
(日経 xTECH 内田泰)
[日経 xTECH 2019年8月5日掲載]