FRB10年半ぶり利下げ、0.25% 資産縮小も終了
【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き下げ、10年半ぶりの利下げに踏み切った。貿易戦争のリスクを警戒し、景気悪化を未然に防ぐ。パウエル議長は「政策のサイクル半ばでの調整」と述べ、長期の利下げ局面入りは否定した。ただ、基軸通貨ドルを抱えるFRBの利下げは、世界的な「金融緩和ドミノ」を招く可能性もある。
31日の会合では、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、年2.25~2.50%から年2.00~2.25%に引き下げた。米国債など保有資産を縮小する「量的引き締め」も、2カ月前倒しして終了することにした。
利下げは金融危機直後だった2008年12月以来だ。緩和政策は量的緩和第3弾(12年9月~14年10月)が最後だった。FRBは15年末から政策金利を平時並みに引き上げる「金融政策の正常化」を進めてきたが、再び金融緩和路線に転じる。
米経済は7月に拡大局面が11年目に突入し、記録が残る1850年代以降で過去最長を更新したばかりだ。失業率も3%台後半と一時は49年ぶりの水準まで下がり、景気の基調は底堅い。記者会見したパウエル議長は利下げの理由を「海外経済の動向とインフレ圧力の停滞」と指摘。貿易戦争で企業投資が鈍化するなど先行き不安が広がっており、景気悪化を未然に防ぐ「予防的利下げ」に踏み切った。
FOMCは声明文で「経済の見通しには不確実性が残る」と指摘し、景気下振れリスクが拭えなければ追加利下げの可能性も残した。ただ、パウエル議長は今回の利下げを「政策のサイクル半ばでの調整」と述べ、緩和局面が極めて短期で終わるとの考えも示唆した。同議長の発言を受けて、先物市場が年内の追加利下げを見込む割合は87%から41%へと急落した。
FOMCは米国債などの保有資産を縮小する「量的引き締め」も、予定を2カ月早めて7月末で終了することにした。FRBは08年の金融危機後、初めての量的緩和政策で大量に米国債などを買い入れた。景気回復で17年秋から「量的引き締め」を開始したが、市場の混乱で19年9月末に停止するとしていた。利下げに転じたことで、資産縮小もさらに前倒しして終了する。
基軸通貨ドルを抱えるFRBが10年半ぶりの利下げに踏み切ったことで、各国・地域の中央銀行も通貨高を警戒して金融緩和に傾いている。欧州中央銀行(ECB)は9月にも追加緩和に踏み切る見通しで、日銀の黒田東彦総裁も「リスクを未然に防ぐ」と早期の追加緩和の可能性を指摘した。世界的な「同時金融緩和」は景気の下支えとなる一方、市場の過熱を招くリスクもある。
新しい政策金利は8月1日から適用する。今回の利下げはFOMCの投票メンバー10人のうち、パウエル議長ら8人が賛成したが、政策金利の据え置きを求めて2人の地区連銀総裁が反対票を投じた。FRBは伝統的に全会一致を重んじてきたが、異論を残したまま景気拡大期の利下げに踏み切る。
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