独走ヤンキース 28度目「世界一」の鍵は先発陣
スポーツライター 杉浦大介
ヤンキースが久々の世界一に向けて突き進んでいる。7月27日まで宿敵レッドソックスに3連敗を喫したが、それでもまだ8ゲームの大差をつけている。今後、大崩れしなければ、2012年以来の地区優勝の可能性は高そうだ。
ここまで常に順風満帆だったわけではない。開幕直後からアーロン・ジャッジ外野手、ジャンカルロ・スタントン外野手、ゲイリー・サンチェス捕手、ディディ・グレゴリアス遊撃手、ルイス・セベリーノ投手らが故障離脱し、スタントン、サンチェス、セベリーノは現在も負傷者リストに入っている。それでも開幕前は控えの役割が想定されていたDJ・ラメーヒュー内野手、ジオ・ウルシェラ内野手らの活躍もあって、ここまで高勝率を保ってきた。
2桁本塁打10人の強力打線
「(今季の強さは)ケガ人が出て、全然レギュラーがいない中でも勝ち続けたことに象徴されていると思います。あれだけ勝ってこれたということで、控え選手の自信にもなっただろうし、すごく大きいんじゃないかと思いますね」
田中将大のそんな言葉にある通り、ケガ人が多かった時期に台頭した戦力のおかげで、特に野手陣は例年以上に層の厚い布陣になっている感がある。10本塁打以上の選手を10人も抱える打線はどんな投手にとっても脅威だろう。
今季のチームはアレックス・ロドリゲス、デレク・ジーター、松井秀喜ら、2桁本塁打の打者を9人もそろえた09年のヤンキースを彷彿(ほうふつ)とさせる。だとすれば、その09年以降は遠ざかってきた世界一が期待されるのは当然だ。
そんなヤンキースにも懸念材料はある。セベリーノ離脱後はもともと層が薄いといわれた先発投手陣が、7月27日まで7試合で合計48失点と崩壊気味。最も安定していた田中も25日のレッドソックス戦ではまさかの12失点と崩れ、チームを救えなかった。今後、地区優勝は果たしたとしても、大事なプレーオフの戦いに向けての不安は消えない。
26日のゲーム前には、人事の鍵を握るブライアン・キャッシュマンGMが「投手陣の補強を考えている」と述べたことがニュースになった。その言葉通り、すでにマディソン・バムガーナー(ジャイアンツ)、ノア・シンダーガード(メッツ)、マーカス・ストローマン(ブルージェイズ)といった実績ある投手の獲得をもくろんでいるという噂はまことしやかにささやかれている。
シーズン中に強さを誇示してきた今季、ヤンキースは久々に"世界一以外は失敗"という重圧の中でプレーすることになる。そんな大事な戦いの中で、かつてのようにシーズン中に大物を獲得してテコ入れするのか。それとも田中の安定、ジェームズ・パクストンの復調、セベリーノの復帰に期待するか。通算28度目のワールドシリーズ制覇に向け、フィールド内外でヤンキースから目が離せない日々が始まりそうな気配が漂い始めている。