出塁+長打力、変わる2番打者像 野球の進化象徴
野球データアナリスト 岡田友輔
つなぎやバントのイメージが強かった「2番打者像」が変わりつつある。セ・リーグでは巨人の坂本勇人が本塁打、打点、長打率などでリーグトップを走り、優勝を目指すチームの原動力となっている。DeNAも後半戦に入り、「日本の4番」の筒香嘉智を2番で起用し始めた。今回は統計学に基づくセイバーメトリクスにおける打順のセオリーを紹介したい。
コンピューターによるシミュレーションや数理モデルを駆使してきた打順の研究だが、結論は至極単純だ。要は「強打者にできるだけ多く、走者をおいて打席が回るようにすること」。真理はいつも身もふたもないほどシンプルなのだ。
野球の構造上、最も打席が回ってくるのは1番、最も好機が回ってくるのは4番となる(別表参照)。この2つが重要なのはいうまでもないが、求められる役割は異なる。先頭での打席が多い1番は相対的に出塁面の役割が大きい。足が速いのに越したことはないが、盗塁の多さは必須ではなく、大リーグでは四球の多い太めのタイプが1番に入ることがよくある。一方、4番は多くの走者を返すことが期待される。出塁よりも長打の比重が大きくなる。
セイバーメトリクスの著名な分析家であるトム・タンゴ氏らが1、4番に並んで重要視するのが2番である。1番が倒れればチャンスメーク、出塁していれば強打でビッグイニングの足掛かりをつくることが期待される。出塁能力と長打力を併せ持ち、併殺を避けられる走力があればさらにいい。坂本同様、ソフトバンクの柳田悠岐は理想的な2番候補だろう。
大リーグでは「2番強打者」が市民権を得て、マイク・トラウト(エンゼルス)のような最高峰の打者が2番を務めている。これまでの日本のように、強打者が生きる打順に「つなぎ」と称してあえて打力の劣る選手をおき、バントや進塁打でアウトを差し出すのは割に合わない。
従来、クリーンアップとして重んじられてきた3、5番はセイバーでは1、2、4番の下におかれる。初回に必ず打席が回る3番はかつてのベーブ・ルースなど大リーグでも特別視されてきたが、2死走者なしで迎えることも多く、そこから出塁しても得点になりにくい。強打者を配しても生かし切れないのだ。5番は好機の割合は多いが、打席数が少ない。
打順を組むうえで一番やってはいけないのが好打者を分散させ、打線に切れ目をつくってしまうこと。野球の構造上、アウトになりにくい打者が続くほど得点は入りやすくなる。上位から下位まで強打者を並べた昨年の西武打線は理想だが、大半のチームはそこまで選手がそろっていない。この場合、下位打線が弱くなっても強打者を上位に固めた方が9イニングトータルでの得点力は向上する。坂本と丸佳浩が並ぶ今季の巨人を見れば、その効果を感じられるだろう。
セイバーの発展により、「1番が出て2番が送り、クリーンアップが返す」といったステレオタイプな役割分担はかなり払拭されてきた。伝統的な考え方が根強かった日本でも打順ごとの攻撃力を5年前と比べてみると5、6番が減少傾向にある半面、2番は大幅に上昇している(別表参照)。強打者は打席数が増える上位におくべきだという認識が浸透しつつあるのがうかがえる。
現実的には打線の組み替えで上積みできる得点は多くても年間数点にすぎず、有力選手の加入に比べれば影響は微々たるものだ。だが、僅かなプラスアルファを求めて進化を続けることこそプロがプロたるゆえん。2番打者の変遷はその象徴といえるだろう。