「素直がいちばん」念頭に 文楽太夫の豊竹咲太夫さん
「これから後、どれだけやれるか。後輩に芸を伝えることに力を注ぎたい」。人形浄瑠璃文楽太夫の豊竹咲太夫さんは人間国宝に選ばれた喜びとともに、文楽を後進に伝える使命感をにじませた。
戦後の文楽に功績を残した八代目竹本綱太夫さんの長男として生まれ、1953年に父の師匠でもある豊竹山城少掾さんに9歳で入門した。「いろいろなお師匠さんに稽古していただいたことが、今日のこやしになっている」
父の綱太夫さんは55年、山城少掾さんらと共に第1回の人間国宝に認定された。「当時の父は50歳。いかに私の芸が遅れているかが如実に分かる」と苦笑する。
2009年に太夫の最高位である切場語りに昇格した。16年に豊竹嶋太夫さんが引退して以降は現役太夫の人間国宝は不在になり、咲太夫さんが現役で唯一の切場語りとして文楽をけん引する重責を担ってきた。
最近は、初舞台の時に父に言われた「素直がいちばん」という言葉を念頭に舞台を勤めている。「以前はひねくり回して語っていたが、今は本に書いてあるとおりに読んでいるだけ」
文楽の現在の課題について「内野手、外野手(三味線、人形)は充実しているが、投手(太夫)力が弱い」と指摘。「何と言っても太夫の力をつけること」と力を込めた。