日清食品、定番カップヌードルを大切にする理由
日経ビジネス
幅広い顧客から、長く愛される「定番」。時代の変化に負けず、業績を底上げしてくれる商品やサービスは、企業の地力を示すバロメーターだ。だが、商品のライフサイクルは短くなっており、定番を生み出すのは徐々に難しくなってきた。
日清食品の「カップヌードル」をつくる国内5工場がフル稼働で生産を続けている。NHKの連続テレビ小説で創業者夫婦がモデルになった効果もあるものの、販売は5年で2割伸びるなど好調だ。中期の成長が見込めるとして昨年8月には滋賀県で新工場を稼働した。2020年まで徐々に生産能力を増やす。
カップヌードルは発売から48年。日清の期待はむしろ高まっている。レギュラー、「シーフード」「カレー」に次ぐ定番商品を常に狙いながら商品開発を進めており、安藤徳隆社長は最近「近い将来、店頭売り上げで国内1000億円のブランドにする」という目標を口にした。即席めんの充実した製品群から「定番の宝庫」(同業他社)と言われる日清。何かにつけて経営指標にするカップヌードルは、その中でも特別な存在だ。
定義は「カテゴリーの代名詞」
日清がカップヌードルに磨きをかけるのは、定番を育てることが成長の源泉になることを誰よりも知っているからだ。「チキンラーメン」とともに初期に確立した定番の収益を新事業に振り向けた日清は「どん兵衛」や「焼そばU.F.O.」といった新たな定番を生み出して成長を重ねてきた。
カップヌードルは発売時からほとんど変わらぬ味とパッケージを維持し、即席めん市場にありながら「ラーメンっぽくない」という独自のポジションを得た。その品質とイメージを維持すれば後年、マーケティングや広告宣伝の効率が高まる。投資に対して上乗せできる販売額が大きくなり、他の事業にも好影響を及ぼす。
企業の命運をも左右する定番。学術的には、どう定義されるのだろうか。商品やサービスの売上高や利益は時間の経過とともに変わる。プロダクトライフサイクル(PLC)と呼ばれ、東京大学の阿部誠教授によると、市場に投入する「導入期」、拡大する「成長期」、頭打ちになる「成熟期」、終売に向かう「衰退期」の順に移行する。阿部氏は「商品自体やバリエーション、価格、流通、プロモーションなどを変えてPLCに打ち勝ち、長く生存する商品が定番」と話す。商品コンサルタントの梅澤伸嘉氏は「定番はロングセラーとして各カテゴリーの代名詞になるもの」という。
強い定番があれば経営に有利だが、育てるのは年々難しくなっている。店頭の2900品目のうち入れ替えは毎週100品目──。セブンイレブンは売れ筋に特化した商品戦略を進めて棚の商品を次々に入れ替えている。ロングセラーや定番といえども売れ行きが鈍れば、売り場を確保できなくなる。
PLCも短くなった。「ものづくり白書2016年版」によると、企業にPLCについて聞いたところ、電気機械の34.7%が10年前に比べ「短くなっている」と答え、「長くなっている」は6.4%。全ての産業で「短くなった」が「長くなった」を大幅に上回った。短くなった理由のトップは「顧客や市場のニーズの変化が速い」で53.5%。ネットやSNSを通じ、話題の商品を探す消費者は移り気だ。
今も10%成長のポカリ
それでもヒット商品から定番へと評価を高めるにはPLCの限界を超えるチャレンジが欠かせない。下のグラフを見てほしい。大塚製薬の機能性飲料「ポカリスエット」は発売から39年が経過したが、国内外ともに18年度に前年度比で1割前後も出荷が伸びている。
ポカリスエットはCM好感度が高く、業界では「安易に安売りしない」ことで知られる。高い製品力に裏打ちされたたゆまぬ努力が結果に結びついている。販売開始から33年となるローソンの「からあげクン」もコラボ商品の投入や鶏肉の国産化といったテコ入れを重ねて売り上げを伸ばす。
人口減少や価値観の多様化で、定番を生む難度は上がっている。しかし、そういう時代だからこそ、定番を生み出せればライバルに差をつける強力な武器になるはずだ。
(日経ビジネス 中沢康彦、白井咲貴)
[日経ビジネス電子版 2019年7月22日の記事を再構成]
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