「自律走行バスは最後の移動手段」SBドライブ佐治社長
ソフトバンク子会社のSBドライブ(東京・港)の佐治友基社長兼最高経営責任者(CEO)は18日、法人向けイベント「SoftBank World 2019」で講演し、2020年の実用化を目指す自律走行バスの取り組みを紹介した。
「地域のバス事業は採算が合わない、人手不足と言われ続け、事業の継続が難しくなっている。それでもラストワンマイルの移動手段としてなくすわけにはいかない」。佐治氏は、同社が自律走行「バス」にこだわる理由をこう説明する。
バスは自家用車の普及で利用者が減っていたものの、高齢ドライバーの免許返納などの流れから自家用車の代替手段として改めて注目されている。住民の移動手段確保が切実な課題となっている地方自治体では、クラウドファンディングで運行費用を募るなど資金調達を始めたところもあるという。
自動運転車は「交差点から飛び出してきた人の検知」や「他の車との衝突回避」などが注目されがちだが、実はバスの事故の3割以上が車内で発生している。具体的には、乗客がバスの走行中に立ち上がったり、ブレーキ時にバランスを崩したりして転倒したことによる事故だ。高齢者の増加とともに、今後さらに増えると予想される。そこで車内の様子を人工知能(AI)で画像解析して「今、ブレーキをかけてよい状態か」を判断するソフト「DaiLY(デイリー)」を開発し、19年1月に発売した。
DaiLYでは、車内の乗客が「立っている」「歩いている」「急ブレーキでふらついた」などの情報をリアルタイムで把握し、地図上にプロットする。自動運転の安全性を高めるために開発したものだが、現行のバス事業者にとっても「どのポイントでヒヤリ・ハットが発生したか」を知るツールとして役立つ。
佐治氏は「乗客の安全をつかさどる最も重要なプレーヤーは、地域のバス・タクシー事業者。SBドライブは『黒子』としてシステムを提供していきたい」と話す。同社の自律走行バスを導入する企業に対しては、遠隔地から乗客をサポートするオペレーターの教育、地元の修理業者への車両保守教育なども含め、バス事業者が従来のバス運行と変わらない体制で運営できるような提供方法を目指している。
講演で紹介したデモ映像では、段差を補助するスロープを乗客同士が助け合いながら設置する様子に触れ、「スロープは自動じゃないのかと言われたりもするが、何もかも技術で実現していたらキリがない。コストも下がらない。たとえ不完全でも今ある技術を使いこなして助け合うことが大切」(佐治氏)と強調。「自動運転は手段にすぎない」と繰り返した。
(ライター 森元美稀)
[日経 xTECH 2019年7月18日掲載]