大阪室内楽コン、弦楽四重奏プレ公演
文化の風
国内外の若手音楽家が腕を競う室内楽の祭典、大阪国際室内楽コンクール&フェスタが来年5月、節目の10回目を迎える。これに先立ち、過去の入賞団体による弦楽四重奏のプレ連続公演(全5回)が始まっている。各回で披露されるベートーベン中後期の作品が聴き比べられる。
5月23日、会場のザ・フェニックスホール(大阪市北区)に、2014年のコンクールを制したルーマニアのアルカディア・クァルテットが先陣を切って登場。ハイドン、バルトークに加え、ベートーベン中期の弦楽四重奏曲第10番「ハープ」を弾いた。
世界の登竜門に
愛称の通り、ハープのように弦をはじくピチカートが特徴的な作品だ。公演を聴いた音楽評論家の横原千史氏は「アンサンブルが精緻で、レベルの高い演奏だった」と称賛する。
コンクールは回を重ねるごとに知名度を上げ、今や若手室内楽奏者の登竜門として世界的に知られる。審査委員長を務めるチェリストの堤剛は「入賞団体のその後の活躍は素晴らしい。彼らにとって、大阪に帰ってきて演奏するのはうれしいことだろう」と"里帰り"の競演に目を細める。
27日の第2回公演に登場する日本のクァルテット・エクセルシオは、入賞を弾みに活動を続けてきた。1994年に桐朋学園大の学生たちで結成し、96年のコンクールで2位。国内では珍しい常設の弦楽四重奏団として20年以上のキャリアを重ねた。チェロの大友肇は「室内楽は続けることが最大の課題。最初の10年は隅々まで息を合わせる練習で、その後10年は合わせすぎず各奏者の個性を出す練習をしてきた」と振り返る。
熟練で難曲挑む
彼らが弾くベートーベンは中期の弦楽四重奏曲第9番(ラズモフスキー第3番)。「古典のスタイルで限界までアイデアを膨らませている。直球をズドンと投げ込むようなエネルギーを感じる作品」と大友は語る。息の長い団体ならではの練り上げられた演奏になりそうだ。
ベートーベンが「第九」交響曲の後に作曲し、幽玄の境地に達したとされる後期作品にも注目したい。11月3日には英国のドーリック・クァルテットが第13番(大フーガ付き)を披露。来年2月20日にはチェコのベネヴィッツ・クァルテットが第15番、同4月11日には米国のアタッカ・クァルテットが第14番を弾く。
3組はそれぞれ、2008年、05年、11年にコンクールで1位に輝いた。横原氏は「まだ若くて優秀な団体ばかり。みずみずしい演奏を楽しめるだろう」と期待をかける。
実は5組のうち4組が「弦楽四重奏の父」と呼ばれるハイドンの作品も取り上げる。「シンプルに思えるが、かなり練習を積まないと良い演奏にはならない。ごまかしが利かない」(横原氏)というのがハイドン。難曲ぞろいのベートーベンとの組み合わせは自信の表れだ。彼らの熟練の演奏を大いに楽しみたい。(西原幹喜)
優秀団体、欧州の音楽祭に
大阪国際室内楽コンクール&フェスタは若手の有望音楽家を発掘、支援する役割も担ってきた。来年からは海外や国内の他地域と連携した新たな取り組みも始める。弦楽四重奏部門の第1位など、優秀な成績を収めた団体をドイツやフランス、オランダの音楽祭に派遣。世界の舞台での演奏機会を提供する。
一方、民族楽器アンサンブルなど編成が自由なフェスタ部門は1次予選を津市と富山県高岡市で開く。同部門は一般の聴衆が審査員を務めるのが特徴。各地域の音楽ファンを巻き込み、注目度を高める。10回の節目を迎えた催しに、さらなる注目が集まりそうだ。
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