ミャンマーへの投資件数、中国が2.4倍に 1~6月
【ヤンゴン=新田裕一】ミャンマーへの外国直接投資が回復の兆しを見せている。2019年上期(1~6月)の外国投資認可件数は、中国と香港が前年同期比2.4倍の計84件となり、全体の6割を占めた。安い賃金を求める縫製工場の進出が目立つ。ただイスラム系少数民族ロヒンギャの問題で米国が国軍最高司令官への制裁を決めるなど、欧米からの投資誘致には不透明な状況が続いている。
投資企業管理局によると、1~6月の外国投資認可額は計23億5500万ドル(約2500億円)、新規投資件数は134件で、いずれも前年同期に比べ8割増えた。
中国・香港からの投資額は5億9千万ドルと前年同期比2.5倍に増えた。日本や欧米企業が地域拠点を置くシンガポールからの投資も同2.8倍の13億ドルに達した。欧州連合(EU)各国からの直接投資は3100万ドルだった。
分野別では縫製業を含む製造業が前年同期比1.6倍の7億ドルだった。中国企業の投資の多くは、布地などを輸入して衣料品に仕上げ再輸出する縫製産業とみられる。中国の人件費上昇が進み、米中貿易戦争を機に人件費が安いミャンマーへの進出を加速したようだ。
運輸・通信は同4倍の10億ドルとなった。4月にインド複合企業アダニ・グループがヤンゴン港のコンテナ埠頭開発の認可を得るなど、インフラ関連の投資が加速した。
ミャンマーの外国投資は16年にアウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権が発足してから減少傾向が続く。ピーク時に比べ約3分の1に落ち込んだが、19年は増加に転じそうだ。
同政権は外資誘致の環境整備を進めている。18年5月に小売・卸売業で外資全額出資の投資を認める通達を公表。19年4月には外資生命保険会社5社に市場参入を認めた。トヨタ自動車は5月末、組み立て工場を開設することを決めた。
ただ現在のペースでは、テイン・セイン前政権の5年間の平均だった55億ドルを超えるのは困難な状況だ。年間目標の60億ドルの達成も難しい。
投資先としてのイメージを悪化させたロヒンギャ問題は、8月に2年の節目を迎える。17年の武力衝突をきっかけにロヒンギャ難民74万人が隣国バングラデシュに流出。難民は「生活の安全が保証されていない」と訴え、難民キャンプにとどまる。
米国務省は16日、ミン・アウン・フライン国軍最高司令官ら4人を新たに制裁対象に指定し、米国への渡航を禁じた。ロヒンギャ問題で外国政府が国軍最高司令官に制裁を科すのは初めてだ。
米国はロヒンギャ迫害を「民族浄化」と非難し、国軍幹部5人を制裁対象にしていた。国務省は、ロイター通信の報道で明らかになった住民虐殺事件で有罪となった兵士が1年足らずで釈放されたことを挙げ「国内で責任追及の動きが見られない」と指摘する。
EUも、これまでに国軍幹部14人に制裁を科したほか、ミャンマー政府に同産品への関税免除特権の停止を検討すると通告している。発動されれば縫製業などへの打撃は大きい。
在ミャンマー英国商工会議所のピーター・クロウハースト最高経営責任者(CEO)は保険業の外資開放など「ミャンマー政府の外資規制緩和の姿勢が鮮明になってきた」と指摘する一方、ロヒンギャ問題については「重大な問題で、ミャンマー政府は透明性をもって問題解決を進める必要がある」と述べた。
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