ヒトとAI、広がる協業 職場に新たな多様性
働き方進化論 さらばモノクロ職場(4)
「クリックされるのはこっちのデザインなんだな」。インターネット広告をつくるサイバーエージェントの横井良将(35)。通販サイトの広告にどんな画像を使うか、思いを巡らす。仕事のパートナーは春から使う人工知能(AI)だ。
■創造力を刺激する
「仕事は1カ月早くなった」。AIはクリックされる確率の高い画像を一瞬で選ぶ。横井はこれを吟味し、顧客に提案する。これまで広告の良しあしの判断基準は、実際にサイトに1カ月載せてみてわかるクリックの実績しかなかった。
成果を出し始めたAIはさらに実力をつけていく。たとえば自らデザインなどを生みだし、ひらめきをもたらす。サイバーエージェントはそんなAIの研究のため、2018年に子会社サイパー(東京・渋谷)を発足させた。映像、音楽、建築。「クリエーターは過去の制作物や納期にとらわれがち」と取締役の中橋敦(38)。AIが人間を鼓舞する役割に期待する。
AIブームが10年代前半に始まると、仕事が奪われるという脅威論も広がった。経済協力開発機構(OECD)によると、仕事の14%は高い確率で自動にできる。これとは別に32%は求められる能力が変わる。
だが、仕事を人間がやるか、AIがやるかというゼロサムゲームの発想にとらわれてはいられない。自動化をきっかけに、個人や組織は一層成長できる。
早朝の東京・大手町。三井住友銀行営業部の本間あゆみ(26)が、カフェでファイナンシャルプランナーの教科書を開く。「学べる時間ができたから」。入力作業などを自動化するソフトウエア「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」が18年、職場に導入された。
これまでは昼からの顧客との面談にそなえ、朝から作業をこなした。投資信託などの運用状況を説明するため、多くのリポートの中から一人ひとりにあった報告書を自ら探していた。RPAは顧客名をパソコンに入れると自動で集まる。
■新たな多様性
総務省によるとAIを使う国内企業は20年に44%。18年の2倍だ。この先、AIがデータ収集と分析の能力を高めていくと、働き方はどう変わるのだろう。
「誰も思いつかない選択肢を示し、経営者を支える」。日立製作所の柳井孝介(40)は「アドバイザーAI」を開発中だ。工場に再生可能エネルギーを導入すべきか。そんなテーマに賛成、反対の立場から複数の根拠を示す。記事やリポートを分析し、リスクがないか問う。経営層もAIに刺激される時代が来る。
三菱総合研究所のAIイノベーション推進室長、比屋根一雄(56)は「職場を変える力としてAIの重要性が増していくだろう」と話す。人間の能力を広げる様々なタイプのAIが登場し、外国人や高齢者とともに多様性をつくりだす。
私たちの職場はいくつもの変化のなかにある。働く人の意識、人口構成、取り巻く技術。様々な力を引き出し、変わろうとする創意工夫が会社を成長させる原動力となる。(敬称略)
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