社風の変化、外国人から
働き方進化論 さらばモノクロ職場(2)
「8割の出来でいい。まず仕上げてほしい」。東京・千代田のスタートアップ企業、ニューラルポケット。英国人アレックス・ダニエルズ(28)は就業開始の9時半から5分間、コーヒー片手に指示を出す。人工知能(AI)にかかわる技術者10人が立って打ち合わせ、1日の作業を決める。
英バース大でAIの博士号を取り、2018年創業直後のニューラルに入った。インターネット上の画像約500万枚からファッションの流行を予測するなど、サービスの開発を主導する。日立製作所やソニーからの転職組が感化され、効率を上げていく。
「高い能力を持った友人もかならず気にいる」。ダニエルズは最先端のビジネスに加えて働き方にも魅力を感じ、大学同級生ら2人の技術者を連れてきた。ニューラルはほぼ定時退社で、リモートワークは原則禁止。優秀な人材を生かすため「膝詰めで議論し、効率を上げる」。社長の重松路威(38)は言う。
高度な知識や技術を持つ高度外国人材は、一部の新興、中小企業ですでに主役だ。優秀な外国人を得る利点はひとつではない。ダニエルズはリーダーであるうえ、中心になって職場に変化をもたらしている。
高度外国人材は米国に集まると思われているが、日本でも増加中だ。厚生労働省によると18年に28万人で、17年から16%増えた。
製造業に強い日本を選んだというのは、ロボットソフト開発会社、MUJIN(東京・墨田)のジェロニモ・ロドリゲス(33)。米グーグルでも働いた経験がある。「先端ロボットの導入に最も前向きな日本はキャリアを積むためには最高の場所」
5月、横浜市。中小企業の合同就職説明会で、集まった学生約130人の8割が外国人だった。バングラデシュ、ネパール、中国……。日本のIT(情報技術)専門学校生で、プログラミングやソフトウエア制御を学んでいる。日本で働きたい外国人は多い。
大企業に比べ高い賃金を出しにくい新興、中小企業はつなぎとめに知恵を絞り、働き方を変えつつある。
「見直すべきなのはコミュニケーション」。社員40人の半数が外国人のドローンシステム開発会社、ブルーイノベーション(東京・文京)。社長の熊田貴之(42)は2カ月に1度、全社員と30分ずつ面談する。
給料を上げてほしい、所属するチームを変えてほしい。そんな細かな要望も聞きながら「自分のありたい姿は?」と問いかける。職場はとことん話し合う中で出来上がる。あうんの呼吸はいっさい求めない。
日本では大勢の学生が、一括採用の仕組みで一斉に社会人のスタートを切ってきた。同じような考え方のメンバーと、1カ所に集まり働き続けた。モノクロの職場でしか成り立たたない常識が、私たちの働き方に根を張っているはずだ。
リクルートワークス研究所の主任研究員、中村天江(46)は働く人が多様になると「暗黙でわかり合おうとするやり方は通用しない」と話す。優秀な外国人に腰を落ち着けて働いてもらうため、常識を問い直す。そんな作業を通じて職場は一層強くなる。(敬称略)
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