照強、兄弟子・安美錦にささげる白星
巨漢の千代丸が繰り出すもろ手突きをいなし、勢い余って土俵際までつんのめった相手の懐へ飛び込んで一丁上がり。小兵らしい軽快な相撲を見せた照強は「相手が重いので横から横から(攻めた)。体が動いている感じ」。語る声は元気良くハキハキと普段通りだが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
入幕3場所目にして初の勝ち越しという喜びはもちろんある。169センチ、116キロの小さな体で2敗を守り優勝争いに加わっている充実感も。ただ、それ以上に胸を満たしていたのは、この日に引退を表明した兄弟子、安美錦への思いだった。
「心の中では(引退すると)予想がついていたけれど、こみ上げてくるものがあった」。9年前の入門時、すでに三役常連のベテランだった兄弟子は私生活でやんちゃ気味の照強を厳しく指導してくれた。「教わったことは人生の財産。おかげで今の自分がある」
数日前には「これから俺の分まで頑張れよ」と冗談交じりに声を掛けられたという。「偉大な先輩が部屋にいてくれて、背中を見て育った。目標にしていきたい」。多彩な技と考え抜いた取り口、真摯な姿勢。照強のみならず、多くの現役力士が学ぶべきものだろう。(本池英人)