台湾総統選、米接近・蔡氏と対中協調・韓氏の対決に
【台北=伊原健作】2020年1月に予定する台湾の次期総統選で、最大野党・国民党は15日、与党・民主進歩党(民進党)の蔡英文総統の対立候補に高雄市長の韓国瑜氏を選出した。国民党は対中国融和路線だが、香港の反中デモを受けて台湾でも中国への警戒感が強まっている。中国との距離が最大の争点で、対中強硬姿勢の蔡総統に対し、韓氏は本来の親中色を薄めた選挙戦を展開することになりそうだ。
韓氏は国民党の予備選で鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)前董事長を破った。28日の党大会で正式に公認され、来年1月11日の総統選で蔡氏と総統の座を争う。
15日の予備選の結果発表後、韓氏は党本部で記者会見し、「蔡政権は3年間の執政で何の希望も見いだせず、あまりにひどすぎた」と、早くも蔡氏への攻撃を開始した。
蔡氏は15日夜、外遊先であるカリブ海の島国セントクリストファー・ネビスからフェイスブックを通じ、韓氏の予備選勝利を祝福した。ただ同時に、「みんな香港を見て。今回の総統選は台湾の民主主義を守る戦いだ」とも指摘した。韓氏が総統になれば、香港のように民主制度が中国に侵食されるとのけん制だ。
6月上旬に香港で中国本土への容疑者移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を求め、デモが激化した。現状の世論調査では、実施機関によって結果は割れているが、台湾でも対中警戒感が高まり、中国と距離を置く民進党側に追い風との見方が多い。
15日の会見で中台政策を問われた韓氏は、「時が来れば説明する」と明言を避けた。韓氏は予備選で、親中派との批判を受けて「(台湾で)一国二制度を実現させない」と述べ、中国と距離を取る姿勢に転じた。今後も親中姿勢を薄めて選挙戦に臨む可能性が高い。
台湾との統一を目指す中国は国民党の政権奪取を望む。ただ、台湾で対中警戒感が強まるなか、露骨に介入すれば選挙で足を引っ張りかねない難しい局面にある。
一方で、中国と貿易や安全保障などで対立を深める米国は、蔡氏への厚遇を鮮明にしている。直近では22億ドル(約2400億円)規模の台湾への武器売却を承認。米中の出方次第で選挙戦に影響を与えかねない。
総統選は蔡・韓両氏の対決が軸となるが、構図を変えうる波乱要因も残る。無党派からの出馬が取り沙汰されている柯文哲・台北市長は15日、出馬を「真剣に検討している」と踏み込んだ。
台湾では民進党と国民党の争いに嫌気がさす有権者が増えている。「全ての問題は二大政党の争いが根源だ」との柯氏の主張に共感が広がり、第三極を形成しつつある。