国民党候補の韓氏、社会の分断追い風 庶民から支持
【台北=伊原健作】「私を黒く塗りつぶそうとする勢力と闘ってきた」。台湾の最大野党、国民党で次期総統選の公認候補に内定した高雄市長・韓国瑜氏は15日の記者会見で語気を強めた。「親中」「ポピュリズム」などと批判されても、社会の分断を追い風に人気は高まっている。
青果市場の元経営者で、「野菜売り」「庶民総統」を自称し、「エリート主体の国民党では全く異質な存在」(党関係者)という。経済格差の拡大に不満を持つ庶民層から絶大な支持を集める。第2次大戦後に中国から台湾に渡った外省人の家系だが、本来の台湾住民である本省人からの人気も高い。
頭髪がほとんどない、親しみやすい風貌と巧みな話術で人気を集める。選挙集会は毎回数万~10万人規模のファンで埋まり、さながら屋外フェスの様相だ。6月末の北部・新竹の集会に参加した60歳代の女性は「政治家にずっとだまされてきた。私たちの味方は韓国瑜だけ」と興奮気味に語る。その人気ぶりは台湾で「韓流」とも呼ばれ、社会現象にまで発展している。
ただ、政策には具体性が乏しい。かつて出馬した高雄市長選では「ディズニーランドを誘致する」など、実現可能性が乏しい主張を繰り返し、今回も「外交官に台湾の特産品を売り込ませる」などと訴えている。
6月の政見発表会では、国民党のライバル候補だった鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)前董事長が、世界中に築いた有力企業家の人脈を生かして台湾に成長をもたらすと訴えたのに対して、韓氏の見劣りが鮮明になった。
だが、台湾のある男性会社員は「郭氏は結局金持ちで、自分たちの気持ちは分からない」と突き放す。台湾メディアなどで「スローガンだけで内容がない」との批判も出たが、民進党関係者は「批判されても支持者は攻撃だと認識して信じない。政策がなくても強力だ」と警戒する。
台湾は2018年の1人当たり名目域内総生産(GDP)が約2万5千ドル(約270万円)と先進国並みに高まる一方、若者の低賃金や経済格差の固定化などの問題に直面する。社会に置き去りにされたと感じ、既存の政治やメディアに怒りを覚える人々の怒りの受け皿になっているという点で、トランプ米大統領と似ているとの指摘もある。