球宴好投の田中 上昇気流に乗って後半戦へ
スポーツライター 杉浦大介
「後半戦に向けてもいい弾みにしたいですし、バトルし続けますよ、自分の(投球の)課題に対しては」
7月8日、クリーブランドで行われた米大リーグのオールスター前日会見の場で、ヤンキースの田中将大はそう述べていた。
苦しんだ前半戦
"夢の球宴"に選ばれた投手としては謙虚な言葉に聞こえるかもしれないが、正直な思いの吐露だったのだろう。今季前半戦での田中は本当に様々な形での不運に見舞われ、苦しんできた印象があるからだ。
5月18日のレイズ戦、23日のオリオールズ戦では2登板連続でピッチャー返しの強烈な打球が身体を直撃し、珍しい痛みを味わった。味方の拙ない守備やアンパイアの微妙な判定に悩まされたゲームも少なくなく、降板後にリリーフ投手が打たれて勝ち星が消えた試合は実に6戦を数えた。
6月29日にロンドンで行われたレッドソックス戦では、2/3イニングで6失点と驚くほどの大炎上。他の投手たちも軒並み痛打された欧州初のMLBシリーズでは、「普段と違う"飛ぶボール"が使われたのではないか」といった噂までがまことしやかにささやかれる始末だった。
こういった紆余曲折(うよきょくせつ)の結果として、前半戦は5勝5敗、防御率3.86。メジャー入り後は5年連続2桁勝利を挙げてきた田中だが、今年はなかなか勝ち星が増えていない。5月7日以降はロンドンでの1戦を除く12戦中11戦で少なくとも6回以上を投げている。そういった中身が結果に反映されず、フラストレーションを感じることは少なくなかったはずだ。
しかし……。そんな厳しいシーズンでも、いやそんなふうに思い通りにならないシーズンの中だからこそ、メジャーでも一流選手の証であるオールスターに選ばれたことにはなおさら大きな意味があったに違いない。
「最後のリストに残っていたということは、(投球内容を)誰かが見てくれていたということ。これからもしっかりと自分にできることをやって、コントロールできることに集中していく」
故障者の代役とはいえ、成績以上に上質だった貢献度が評価されての球宴選出で自分のやってきたことの正しさを確認できたはずだ。そして、この栄誉をきっかけに、田中はついに上昇気流に乗り始めているようにも見える。
球宴で日本投手初の勝ち星
オールスター本戦では1イニングを投げて無失点で、日本人初の勝利投手になった。後半戦初登板となった7月14日のブルージェイズ戦後でも6回を2失点に抑え、6月17日以来となる6勝目をマーク。首位を独走するチームの主戦投手の一人として、確実に存在感をアピールしている。
「このままいい流れになっていけばいいなと思う。ただ、いい流れになればいいと願っているだけでは何ともならないので、その流れを自分でつかみ取れるように、しっかりと次の登板に向けて自分の準備はしていきたい」
厳しい時間を乗り越えても、田中には安堵も気の緩みも見られない。このまま後半戦にペースを上げ、日本人投手の記録を更新するメジャーデビューから6年連続2桁勝利に近づいていけるか。2009年以来の世界一を目指す名門チームを支えられるか。長いシーズンが盛り上がるのはこれから。運、不運の総量はだいたい釣り合いが取れてくるもので、今後も安定した投球を続ければ、今夏から秋にかけての田中にオールスター出場以上のハイライトが訪れる可能性も十分にあるはずだ。