「一律救済早く」、ハンセン病原告団会見 決意新たに
ハンセン病家族訴訟の控訴見送りに伴い、政府は12日、謝罪を盛り込んだ安倍晋三首相の談話を決定した。家族を対象とした救済制度の検討が始まり、原告団は「大きな勝利」と沸き立つが、被害の度合いが異なる「家族」を一律で救済するのは難しい。困難が見込まれる制度設計に対し、高齢化が進む原告団からは「一刻も早く」と注文がついた。
「問題解決に向け、1つの手掛かりをもらった。これを機に啓発活動にも力を入れてほしい」。12日午後、衆院議員会館で開いた記者会見で、林力原告団長(94)は笑顔を見せた。政府の談話には安倍首相が原告らと面会する方針が盛り込まれ、根本匠厚生労働相も「家族が抱える問題の解決を図るための協議の場を設置する」と述べた。
林団長は「『くされの子』となじられ、恋人にも逃げられた。そんな長い人生の物語を元患者の家族は皆持っている。その断片でも政府に分かってほしい」と強調する。
原告団の黄光男副団長(63)が「謝罪をすることは簡単。それが本当の言葉になるかは、これから始まる交渉次第だ」と話すと、参加者から拍手が起こった。
元患者の家族の高齢化は進み、「もう人生も長くないと解決を諦める人も少なくない」(林団長)。弁護団の徳田靖之共同代表は「一刻も早い救済を」として、7月中に家族らと国による協議の場を設けるよう訴えた。
原告団が求めているのは、元患者の配偶者や親子、きょうだい、その他の同居していた親族までを対象に全員一律の金額を支給する救済策だ。ただ、6月28日の熊本地裁判決では原告561人のうち、国の責任を認めたのは541人にとどまった。元患者との関係性などによって認定される賠償額は分かれ、差別の認定や補償額の決定における線引きは難しい。
首相の政治決断で訴訟に終止符を打った例は過去にもある。その都度、救済法などを成立させて補償を整備してきた。
ハンセン病を巡っては、2001年に国の隔離政策の違憲性を認めた判決について当時の小泉純一郎首相が控訴を断念し、元患者への補償金の支払いなどを定めた「ハンセン病補償法」を作って救済制度を創設した。
薬害C型肝炎訴訟では07年に当時の福田康夫首相が患者を全員一律で救済する議員立法の提出を表明し、08年に原告と国が和解。症状に応じた給付金の支払いを定めた法律を新設して幕を引いた。
厚労省の幹部は「秋の臨時国会に関連法案を提出できるかどうかが一つのメドになるが、解決すべき課題は多い。一筋縄ではいかない」と話した。
■内田博文・九州大名誉教授(刑事法)
謝罪や原告でない人への補償措置を含む首相談話は妥当だ。ただ政府声明で時効に触れた点などは被害特性を理解していないように思える。救済範囲を狭める結果につながりかねず、問題点を残したと言える。
幅広い被害救済を図るためにはハンセン病問題基本法の改正など立法措置が必須だ。実態を明らかにするための第三者機関や都道府県ごとの相談窓口も設置すべきだ。市民も積極的にこの問題を学び、社会全体が偏見差別の解消に努めなければならない。
■藤野豊・敬和学園大教授(日本近現代史)
家族への謝罪を盛り込んだ首相談話と、国会議員の立法不作為を認めないとする政府声明とは矛盾しており、どちらが国の本心なのか図りかねる。特に重要な人権啓発について「公益上の見地にたっておこなう」とした点は、原告に寄り添わない国の姿勢で独自に進めるように見える。
ハンセン病家族訴訟だけでなく、旧優生保護法に基づく強制不妊手術など他の人権問題を巡る訴訟も続いている。政府声明ではなく、首相談話の考え方に沿った良い影響を期待したい。