アジア投資銀、域外に照準 欧州で総会
加盟97カ国・地域に
【ルクセンブルク=小川知世】中国の主導で設立された国際開発金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)は12日、欧州の小国ルクセンブルクで4回目の年次総会を開いた。初めてアジア域外で開催することで、欧州や中東、アフリカに積極的に投資を進める姿勢を打ち出す。2016年に鳴り物入りで誕生したAIIBだが、中国の影響力拡大への警戒もあり、融資が思うように伸びていない。アジア域外にも手を伸ばして存在感の拡大につなげる狙いだ。
今回の総会は北京、韓国、インドで開いた過去の総会と異なり、欧州で行う。欧州で初加盟したルクセンブルクを開催地とし、国際機関としての位置づけをアピールする狙いだ。アジアと欧州の連結強化やインフラ投資に関する会議も併せて開き、欧州の出資を促す。
実際にAIIBは域外に急拡大している。開業時に57カ国だった加盟国は参加見込みの国を含めて97カ国・地域に広がり、日米主導で先行するアジア開発銀行(ADB)の68カ国・地域を上回る。4月にはチュニジアやウルグアイなど4カ国が新たに加わった。欧州やアフリカなど域外国の割合は半数に迫り、主要7カ国(G7)で未加盟なのは米国と日本だけだ。
融資の案件も中東やアフリカに広がる。開業時からこれまでに承認した45件はインドやインドネシアなどが中心だが、トルコやエジプトのエネルギー関連事業、オマーンの港湾整備も対象だ。アゼルバイジャン産の天然ガスをトルコから欧州に輸出するパイプライン建設にも融資した。5月には初の外債をロンドンで起債し、資金調達の手段も多様化させている。
アジア域外への進出を進める一方で、融資額は伸び悩んでいる。開業時からの投融資総額は約84億ドル(約9100億円)で、当初目標に掲げた年間100億ドルを大きく下回る。世界銀行やADBなどとの協調融資が6割を占め、単独での融資案件はまだ限定的だ。
背景には広域経済圏「一帯一路」構想を進める中国への根強い警戒感がある。AIIBは中国色の払拭に努めるものの、中国の議決権の比率は25%を超え、重要議案で事実上の拒否権を持つ。本部が北京で、中国人が総裁を務め、運営や意思決定のプロセスがなお不透明との指摘もある。現在約230人とADBの10分の1以下にとどまる運営人材の確保も課題だ。
米中の貿易摩擦も逆風となりかねない。AIIBや中国との連携を重視してきた世界銀行ではキム前総裁が任期途中で辞任し、対中強硬派で知られる米国のマルパス元財務次官が4月に新総裁に就任した。AIIB発展の突破口になるとみられる日米参加の議論が遠のく可能性がある。発足3年半を迎えたAIIBの運営の難しさも浮き彫りとなっている。