中国の貿易先、米国3位転落 上半期ASEANが2位
対米輸入が大幅減少 東南アジア、「一帯一路」で開拓
【北京=原田逸策】貿易戦争の長期化で中国の貿易構造が変わり始めた。中国税関総署の12日の発表によると、2019年上半期(1~6月)の中国と米国の貿易額は前年同期比14%減の2583億ドル(約28兆円)となり、東南アジア諸国連合(ASEAN)に抜かれて国・地域別で3位になった。首位の欧州連合(EU)との差も開いた。
追加関税で米国からの輸入が急減した一方、中国は広域経済圏構想「一帯一路」でつながる東南アジアや欧州の市場開拓に力を入れたためだ。
対ASEANの貿易額は前年同期比4%増の2918億ドル、EUとの貿易額は5%増の3379億ドルだった。中国の貿易相手国・地域では04年にEUが日本と米国を抜いて首位に浮上。米国は長らく2位が続いてきた。
ASEANと米国の差は上半期で300億ドルを超え、米中の貿易摩擦が短期間で解決しなければ、米国は通年でも3位にとどまりそうだ。米国の対中貿易額が通年でASEANに抜かれれば、統計を遡れる1997年以降では初めてとなる。同じ関税率を適用する経済体ではなく、個別の国ごとにみれば米国は依然として中国の最大の貿易相手だ。
上半期の対米貿易は輸出が前年同期比8%減の1994億ドル、輸入が30%減の589億ドルと輸入が大幅に減った。米中は昨年7月から追加関税をかけあったが、中国からみると輸出より輸入のほうが減少幅が大きい。
米国からの輸入品は代替調達先がみつけやすい農産品やエネルギーが中心の一方、中国からの輸出品はパソコンや携帯電話など工業製品が中心で供給網(サプライチェーン)の組み替えに時間がかかるためだ。税関総署の李魁文報道官は12日の記者会見で「外部環境は複雑で厳しく、貿易の安定は多くの試練に直面している」と語った。
6月単月でみた対米輸出も前年同月比8%減の392億ドル、輸入は31%減の93億ドルだった。3カ月連続で輸出、輸入ともに前年同月の水準を下回り、貿易規模の縮小に歯止めがかからない。
一方、一帯一路の沿線国を抱えるEUやASEANとの貿易は堅調に推移する。上半期にEU向けの輸出は6%増、輸入も3%増えた。ASEAN向けも輸入は0.2%減と小幅に減ったものの輸出は8%増えた。
ASEANの国で輸出の伸びが目立つのはベトナム向けで、上半期に14%も増えた。中国企業が進めてきたベトナムへの工場移転が貿易摩擦で加速し、移転先の工場に中国から部品や原材料を送る貿易が増えているようだ。一部には米国の追加関税の回避を狙った迂回輸出もあるとみられる。
個別品目の動きがわかる1~5月までの数値をみると、米国の代替輸出先として中国が東南アジアなどの市場開拓を進めている姿が浮かぶ。
例えば、昨年9月に米国が10%の追加関税をかけ、今年5月に25%に引き上げた家具。19年1~5月の対米輸出は前年同期比11%減の37億ドルになった一方、ASEAN向けは30%増の10億ドルに増えた。河北省の家具メーカーの輸出担当者は「米国の取引先は追加関税の負担を軽減しようと値下げ要求が強い。米国からの注文を受けないメーカーも増えている」と話す。
同じく昨年に米国が25%の追加関税をかけた半導体は1~5月の対米輸出が前年同期比29%減る一方、ASEAN向け輸出は37%も増えた。おもちゃは追加関税の対象になっていないが、ASEAN向け輸出は52%増の10億ドルに膨らんだ。
米中は9日に閣僚級が電話で協議して貿易交渉を2カ月ぶりに再開したが、今週との観測もあった対面協議は開けていない。トランプ米大統領は11日に「中国は『農産物を買う』と言ったのに買っておらず、がっかりしている」とツイッターに投稿した。交渉は長期化しそうな雲行きで、当面は米中貿易の縮小が続く公算が大きい。