韓国、輸出規制の打開示せず 財閥トップらを緊急招集
【ソウル=鈴木壮太郎、山田健一】日本による輸出規制の強化に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が打開策を示せずにいる。文大統領は10日、大手財閥のトップを緊急招集し「官民緊急体制」の構築を呼びかけた。国際世論を味方につけようとも腐心するが、いずれの対応も決め手を欠き、早くも手詰まり感が強まっている。
「事態が長期化する可能性は捨てきれない。こんな状況をどう打開すべきか。皆さんの意見が聞きたい」。文氏は10日午前、サムスンや現代自動車、SK、ロッテの有力財閥を含む大手30社と経済団体のトップらを前に、こう語りかけた。
文氏は日本の措置が「政治的目的のために韓国経済に打撃を与える措置」だとし、日本に対し改めて撤回を求めた。そのうえで「前例のない緊急事態。政府と企業が常時協力する官民緊急体制を整える必要がある」と強調した。
文政権の経済司令塔である金商祚(キム・サンジョ)政策室長と洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相、各社の最高経営責任者(CEO)が常時連絡を取り合い、短期と中長期の対策を立案する構想だ。
短期的には日本以外からの輸入拡大や技術導入を政府が支援。行政手続きも簡素化する。中長期では日本に頼る部品・素材・機器の国産化比率を高めるとしている。
ただ、招集された企業の内心は冷ややかだ。ある大手財閥幹部は「政府が話し合うべきは我々ではなく日本政府だ」と憤る。サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長、ロッテの辛東彬(シン・ドンビン)会長は日本出張のため欠席した。
日本が部品・素材・機器を供給し、韓国が完成品をつくる――。日韓ではこんな水平分業がすでに確立している。韓国の対日貿易赤字が2018年に240億ドル(約2兆6100億円)と国別で最大なのは、こうした産業構造のためだ。
今回、日本政府が輸出規制を厳しくした高純度フッ化水素、レジスト(感光材)、フッ化ポリイミドは日本企業がシェア7~9割を握る。代替調達は事実上不可能だ。
日本が韓国を安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定から外せば、対象品目はぐっと広がる。部品や素材の国産化には「1~2年ではなく、非常に長い時間がかかる」(韓国半導体産業協会の安基鉉=アン・ギヒョン=常務)。いまそこにある危機の解決策にはならない。
韓国は国際社会への働きかけも強める。9日にジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)理事会では「国際的な分業体制をかく乱し、韓国企業だけでなく世界貿易にも否定的な影響を与える」と主張した。
ただ、今回の日本の措置は韓国への優遇をなくし、中国や台湾などと同じ条件に戻すだけだ。「現段階ではWTO違反と断定するのは難しい」(仁荷大の鄭仁教=チョン・インギョ=教授)との声は韓国の通商専門家からも上がる。
韓国政府は国内企業との連携以上に、日本政府との対話も急がれる立場にある。韓国政府は、元徴用工問題で日本が要請する第三国を交えた仲裁委員会の設置に応じる構えを見せていない。日本側が期限とする18日までに韓国側の行動がないと事態はさらに悪化する恐れがある。
日本政府による韓国への輸出規制拡大を受け、同国で事業を営む日本企業には逆風が吹く。韓国のコンビニエンスストアで人気の高い日本のビールの販売が1割減り、日本の高級車にキムチを投げる嫌がらせもインターネット上で報告されている。今後の不買運動の広がりは不透明だが日本企業は警戒を強めている。
スーパーやコンビニを多店舗展開する韓国イーマートと同ロッテグループによると、8日までの7日間の日本のビールの売上高は直前の7日間と比べ10~15%減少した。
だが、不買運動や嫌がらせは一時的との見方もある。2013年には島根県の「竹島(韓国名は独島)の日」の式典をめぐり不買運動が起きたが長続きしなかった。保守系韓国紙の中央日報は「日本企業は韓国の雇用に貢献している」と指摘。感情的な理由に基づく不買運動は成果が無いとして冷静な対応を促した。