避けられないスランプ 脱出の一歩は意識から
今年のペナントレースも折り返し地点を過ぎた。予想を上回る活躍をしている選手がいる半面、本調子からほど遠く、苦しんでいる選手もいる。スランプはどうして起こり、いかに脱出すればいいのだろうか。
野球に限らず、プロスポーツにはスランプがつきものだ。昨季まで2年連続沢村賞の菅野智之投手(巨人)は精彩を欠いているし、女子テニスの大坂なおみ選手も四大大会2連覇を達成した半年前とは別人のような不調に陥っている。スランプには体調面、精神面両方の原因が考えられる。腰の違和感が伝えられている菅野投手は体調面の要素が大きいだろう。若い大坂選手は精神面の可能性が高そうだ。
いずれにしてもいえるのは、プロスポーツとはそれだけ僅差の中で競い合っているということだ。私自身、最多勝を獲得した3シーズンでも例外なく1カ月以上勝てない時期があった。好調と不調の境界はそれほど繊細で曖昧なのだ。
好調がずっと続かないのは、人間の体には知らず知らずのうちに色々なクセがつくからだ。どれだけ春季キャンプでフォームを固め、日々気を付けていても、こればかりは避けられない。毎日念入りに歯磨きをしても、歯石がたまるようなものである。
こんなときは調子が良くなるのを待っているのではなく、もがいた方がいい。好調時の映像を見るのは有効な対処法となる。ただし気を付けたいのは、肘の位置やステップの幅などを精査して、映像のフォームを再現しようとしないこと。映像と自分の感覚には絶えずズレがあり、映像に一致させようとしてもいい感覚は戻ってこない。では何をするのかというと、好調時に何を意識して投げていたかを思い出すのだ。正しい方向に意識が変われば、フォームも自然と矯正される。
■ルーティーンと違う取り組みも効果
いつものルーティーンとは違うことも意識してやった。普段より早く球場に行き、走り込みやトレーニングに時間をかける。そうやって体のキレを取り戻すのはもちろん、不調で迷惑をかけているチームメートに汗を流す姿を見せるのも大切なことだ。周りが「何とか助けたい」と思ってくれなければ、勝てる試合も勝てなくなるのだ。
私も経験を重ね、知識が増えるにつれて、短期間で不調を脱出できるようになった。その裏返しか、意味不明の絶好調ということもなくなったように思う。好調の理由がわかるようになるとそれを保とうという意識ばかりが働き、ほかが崩れてくるから難しい。プロの選手に求められるのは大きな不調をつくらないこと。好不調の波は小さい方がトータルではプラスとなる。その際、自己診断できるポイントを把握できていればこれほど心強いことはない。様々な手法が見つけられる今の時代、ああでもない、こうでもないといろいろ取り組んでみても決して遠回りにはならないはずだ。
スランプはひとつの白星やポテンヒット1本などささいなきっかけで脱出できることも多い。が、そもそもの原因が体調面にある時は注意が必要だ。痛い箇所をかばってプレーしているうちに悪いクセがつき、それが常態化することだけはないようにしたい。
(野球評論家)