資本効率を問う 還元提案10年で3倍
検証株主総会2019(下)
株主提案が過去最高となった2019年の株主総会。テーマ別で最も多かったのが、増配や自社株買いなど株主還元を求めるものだった。09年の10件から10年で3倍超に増えた。
JR九州には大株主の米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズが720億円を上限とする自社株買いを求める株主提案をした。ファーツリーは資本コストを下げるために自社株買いをすべきだと主張したが、取締役会は成長投資に借入金を活用する計画だと反論した。総会では否決されたが3割台の支持を集めた。
18年に改訂された企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)では自社の資本コストを把握し、経営戦略を立てるべきだと盛り込まれた。今年の総会では経営者に資本コストへの意識を問う提案も目立った。世紀東急工業と極東貿易には経営者と投資家が同じ尺度で対話することにつながると、資本コストと算定根拠の開示を定款に盛り込む提案が株主から出た。
両社とも定款に盛り込む事項ではないと反論しつつ、世紀東急は中期経営計画の最終年度の自己資本利益率(ROE)は11.7%を目指しており、資本コストを上回ると説明した。議案は否決はされたものの、賛成は3割を超えた。
総会前に資本コストを巡るやり取りもあった。浅沼組には株主の投資ファンドから資本コストの開示を求める提案が出たが、同社は19年3月期の決算説明会で加重平均資本コスト(WACC)が5.1%だったとのデータを開示。ファンドは提案を取り下げた。
株主提案まで至らなくても、企業の資本効率に疑問を持つ株主はいる。そういった株主は会社提案への反対を通じて、疑問を投げかけるようになっている。
今年の総会で特に目立ったのが地方銀行だ。貸し出しや手数料収入といった本業の苦戦に加え、超低金利で資金運用も振るわず業績やROEが低迷。落ち込む株価に不満を持つ株主は多い。
福島銀行では稼いだ利益をどのくらい株主に配分するかという剰余金処分案に対して反対が36%、加藤容啓社長への反対も3割超に膨らんだ。ほかにも筑波銀行や沖縄銀行、高知銀行、滋賀銀行、大分銀行、長野銀行などで経営トップへの反対率が軒並み2割を超えた。
事業会社でもROEが低迷している大日本印刷や小森コーポレーションのトップ選任には3割を超える反対が出た。
機関投資家の行動指針(スチュワードシップ・コード)が定着し、投資家は自ら設けた基準で議決権行使をするようになっている。三井住友トラスト・アセットマネジメントは配当性向が30%に満たず、かつROEが東証株価指数(TOPIX)構成銘柄の下位25%にいる場合、原則、剰余金処分案に反対。第一生命保険は直近5期のROEが3%未満の企業の代表取締役選任に反対している。
ただ両指針はいたずらに企業と株主の対立をあおっているわけではない。
川崎汽船は総会前の6月10日、株主向けに資料を開示した。議決権行使助言会社の反対推奨への見解という形で、過去5年平均のROEが5%を下回っていることを認めて、構造改革や収益改善策などの企業価値向上策について記した。その姿勢に多くの株主が理解を示し、総会ではトップの賛成率が9割を超えた。
指針の原点は両者が対話を通じ、共に企業価値を高めるということにある。19年総会はLIXILグループで株主提案が可決。過去最高の300社超で反対の比率が2割を超える議案があるなど歴史的な転換点となった。この経験を生かし、経営者と投資家が対話を進めながら共同歩調をとれるか。20年総会はすでに始まっている。
秦野貫、丸山大介、内田諭、久保田皓貴が担当しました。