「正しいことをする」(ルポ迫真)
LIXIL再起動(4)
「自分の人生を振り返ると、『逃走』か『闘争』では、いつも『闘争』を選んでしまう」。6月25日の株主総会を経てLIXILグループの最高経営責任者(CEO)に復帰した瀬戸欣哉(59)はこう話す。昨秋、前CEOの潮田洋一郎(65)に事実上解任された。工具などの通販サイトを運営するMonotaROを起業した瀬戸のもとには、著名企業から経営者としてのオファーが届いていた。だが「逃げてはいけない」。
瀬戸が解任された経緯や手続きの検証報告書は「(指名委員に対し)瀬戸氏が辞任の意思を持っているような誤解を与えた」ため、潮田が人事案を決議したと指摘。「問題がない」と結論づけた。「事実の究明というよりも言い訳。これではダメだ」。瀬戸の闘争心に火が付いた。こうした係争では会社側がほとんど勝つ。勝ち目は薄いが腹をくくった。
ショックだったのは、株主に影響力を持つ議決権行使助言会社2社が瀬戸の取締役再任に反対したことだ。その理由として「能力が解任の理由という見解を完全に排除できない」「利益目標の未達や株主価値を損ねた責任がある」などとした。
LIXILの「3つの行動」の一つに「DO THE RIGHT THING(正しいことをする)」がある。瀬戸が示したものだ。この「正しいことをする」を自分に言い聞かせて戦った。会社側有利との見方を覆し、CEOに返り咲いた。
真価が問われるのはこれからだ。「短期間で利益を確保することを得意とするコストカッター」。瀬戸をよく知る人はこう表現する。瀬戸は前回、海外子会社の不正会計問題で巨額の赤字となった2016年に社長に就いた。経営幹部を半減させて組織をスリムにし不採算事業も売却。18年3月期には純利益545億円と最高益を達成した。一方で「縮小均衡型の経営になるのでは」「(瀬戸は)起業家向きで、大企業をさらに発展させることには向いていない」と心配する声もある。
サッシなど国内事業のテコ入れや、売却を模索したイタリア建材子会社ペルマスティリーザへの対応、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化など課題は山積している。並行して海外で稼ぐ力を高める必要がある。瀬戸の第2章がスタートした。(敬称略)
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太田明広、小田浩靖、松本裕子、篠崎健太、宮本岳則、牛込俊介が担当しました。