中国、南シナ海で米警戒 空母標的、ミサイル誇示
【北京=高橋哲史】中国が南シナ海で弾道ミサイルの発射実験を実施した背後には、米軍が実施する「航行の自由」作戦をけん制するねらいが透ける。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とトランプ米大統領は6月29日の首脳会談で貿易戦争の「一時休戦」で合意したが、台湾問題を含む安全保障の面では中国が一歩も引かない姿勢を示したといえる。
中国外務省の耿爽副報道局長は4日の記者会見で、弾道ミサイルの発射に関する質問に「それは軍に聞いてもらいたい」と繰り返し、否定も肯定もしなかった。
発射したミサイルの種類は明らかになっていないが、「空母キラー」の異名を持つ対艦ミサイル「東風21D」ではないかとの見方がある。
「東風21D」は速度が速く、艦船が防御しにくい。人民解放軍は2018年に射程がより長く、米軍基地のあるグアムまで届く中長距離弾道ミサイル「東風26」も配備しており、米軍は警戒を強めている。
人民解放軍は西太平洋に米軍を近寄らせない「接近阻止・領域拒否(A2AD)」を戦略目標に掲げているとされる。今回の南シナ海でのミサイル発射実験には、この目標が実現に近づいていることを米軍に見せつける思惑がちらつく。
米軍が頻度を高めている「航行の自由」作戦に対し、中国は昨秋まで「中国の海域から退去せよ」と呼びかける程度だった。しかし、18年9月に米海軍のイージス駆逐艦に中国軍のミサイル駆逐艦が後ろから接近する事件が起きて局面が変わった。中国は「航行の自由」作戦への警戒レベルを上げたとみられる。
米軍の活動は台湾周辺でも活発だ。米海軍の艦船は今年に入って頻繁に台湾海峡を通過している。「だれかが台湾を中国から分裂させようとするなら、中国軍は戦争も、いかなる犠牲も惜しまずに祖国の統一を守る」。中国の魏鳳和国防相は6月、「戦争」ということばを使って米国を強くけん制した。
南シナ海も台湾も中国が「核心的利益」と位置づける地域だ。習近平指導部は貿易問題で一定の譲歩ができても、南シナ海や台湾の問題では譲る姿勢をみせられない。