大阪と板門店土産、中身に揺れる市場
20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)での米中トップ会談の結果はほぼ市場の想定内であった。とはいえ、会談の決裂や対中関税の追加引き上げという最悪のシナリオも覚悟していただけに、当面、市場は歓迎の姿勢だ。
さらに、想定外のサプライズもあった。ファーウェイへの禁輸が米国製品で米国安全保障に脅威とならない範囲で一部解除された。
板門店での米中トップ会談も、「握手とハローの挨拶」程度と見られていたが、1時間近くに及んだ。ときあたかも、米国市民の関心は民主党候補者のテレビ討論会に集中していた。そこに、板門店で米国大統領が国境をまたぎ北朝鮮領内に足を踏み入れる写真が飛び込み、劇的なビジュアル効果が演出されている。以上の合わせ技の効果で、今晩のニューヨーク(NY)のダウ工業株30種平均は3桁の急騰で寄り付きそうだ。
とはいえ、トランプ米大統領はジレンマを抱える。米中・米朝間の緊張が本当に緩和されれば、自らが渇望する利下げの確率が低くなる可能性がある。一方で、米国の製造業関係の経済指標は悪化の傾向を強めているが、追加関税が回避されたことで製造業関係者の抱く不安感も幾分なりと和らぐかもしれない。
市場心理も複雑だ。トランプ氏のG20での日本と直後の韓国を訪問した際の土産は、中国と北朝鮮もようの派手なリボンで飾られたボックスだが、その中身はいまだ披露されていない。
今回のG20には参加せず留守番役を務めたクドロー国家経済会議委員長は、米中間の貿易戦争の休戦協定について、極めて慎重な見方を示している。
市場も、中国が米国側の要求どおりに「法改正」にまで踏み込むことはあり得ないと見ている。ハイテク覇権争いも両国の「核心」に触れる問題ゆえ、もとより、市場が期待するところではない。北朝鮮が米国が要求する全面的な非核化に応じるはずもない。
市場の期待のハードルは低く、今後のトランプ氏や習近平(シー・ジンピン)国家主席、金正恩委員長の一言でマーケットの歓迎モードが一気に冷めるリスクをはらむ。
G20終了後、独立記念日を経て、米国の国内政局は一気に大統領選挙ムード一色となり、トランプ氏のツイートも有権者を意識した発言が連発されよう。支持率を上げるためには過激な表現も使われることが予想される。
それが株価を下げる影響があろうとも、トランプ大統領は辞さずの構えだ。ゆえに、市場も割り切っている。それより、やはり気になるのは、今後のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言であろう。市場が利下げ方向へ先走りする傾向をけん制しつつ、徐々に金融政策の転換が進んでいる。
大統領とFRB議長の関係が発する不協和音が、中国と北朝鮮からのノイズより強まりそうな7月相場である。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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