米朝、非核化の溝は埋まるか? 3つのポイント
南北の軍事境界線にある板門店で6月30日に3度目の首脳会談に臨んだトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、膠着状況に陥っている非核化交渉の再開で合意した。トランプ氏は2~3週間以内に実務交渉を開くと表明したが、米朝の主張の溝は深い。実務交渉の行方のポイントをまとめます。
(1)「ビーガン・崔善姫」ラインに注目
米国側の実務交渉はポンペオ国務長官とビーガン北朝鮮担当特別代表が担う。ポンペオ氏は米朝が対話を始めた2018年以降、金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長との間で交渉を進めた。しかし、19年2月にハノイで開いた2回目の米朝会談で強硬姿勢をとったポンペオ氏に対する北朝鮮の不信感は根強い。
金正恩氏は6月30日のトランプ氏との会談へ出向いた板門店に、李容浩(リ・ヨンホ)外相と崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官を同行させた。この2人に交渉を主導させるためとみられる。
30日に板門店の「自由の家」で首脳会談が開かれている間、ロビーで話し込む崔氏とビーガン氏の姿が現地を取材した米国メディアにとらえられており、今後も注目だ。
8月初旬にバンコクで開く東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会合ではポンペオ氏と李氏が顔を合わせる可能性が高い。
(2)米に譲歩迫る北朝鮮
米国は「最終的で完全に検証された非核化」(FFVD)を実現するまで、制裁を維持する方針を掲げている。他方、北朝鮮は制裁を18年6月のシンガポールでの共同声明に反する「敵対行為」だと強く反発している。
今のところ北朝鮮が示す核施設の廃棄は寧辺(ニョンビョン)にとどまる。非核化措置を徐々に進める「段階的非核化」を主張しており、これ以外の実質的な非核化措置には言及していない。
北朝鮮は「19年末」と期限を切ったうえで、米国に一方的な譲歩を求めている。6月27日に朝鮮中央通信が報じた外務省局長談話は「朝米対話が開かれるには、米国が正しい方針を持って臨まなければならない」などと米国が姿勢を変えるべきだと主張した。
(3)米国妥協は日本に脅威
韓国に亡命した北朝鮮の太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使は、「核保有国」としての認定を得ることが金正恩氏の狙いだと言い切る。米国が妥協し制裁を緩めるような展開は、核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成に近づける時間稼ぎの余裕を与え、核放棄への動機を弱めてしまう恐れがある。
そもそも北朝鮮が唱える「朝鮮半島の非核化」は、在韓米軍の機能縮小の概念が含まれている。北朝鮮の核の温存と、東アジアの米軍プレゼンス低下を招くような事態は日本の安全保障上の脅威を高める。
(ソウル=恩地洋介)