対韓輸出規制、恣意的運用の恐れ 元徴用工で対抗措置
半導体素材など、中長期的に「日本離れ」懸念も
政府が半導体の製造に使う材料で対韓輸出規制を強化すれば、通商ルールを恣意的に運用していると受け取られる恐れがある。日韓関係の緊張を高める可能性があるばかりか、日本製の半導体材料などが安定調達できないとなれば、中長期的にみて「脱日本」の動きを招きかねない。
「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」。日本が議長国を務めた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は29日公表の「大阪宣言」で、自由で公正な貿易の重要性を訴えたばかりだ。
その日本が韓国を対象に半導体材料3品目で輸出規制を強化する検討に入った。韓国は半導体大手のサムスン電子や薄型・高性能なテレビを得意とするLG電子など有力な電機産業を抱えている。一方、半導体の部品供給網では、世界シェアを独占している日本企業が多い。今回対象となる3品目のうちレジストやエッチングガスは日本のシェアが9割前後にのぼるとされる。
3品目の輸出許可・審査は3カ月程の時間がかかるとされる。韓国勢の生産がしばらく影響を受けるのは避けられない。日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟で、三権分立を盾に実効的な対策を打とうとしない韓国政府を動かす交渉カードを切るといえる。
こうした劇薬ともいえる措置は長い目でみて副作用も大きい。裁量的なルール運用で戦略的な物資の安定調達が予測できないとなれば、半導体素材などで日本離れが進む懸念もある。サムスンなど世界中に取引網を広げる大企業は、中長期的に代替先の確保を進める可能性もある。
日本と中国は2010年に沖縄県尖閣諸島をめぐり対立し、中国はレアアースの対日輸出を止めた。日本の製造業は中国産に依存していたが、供給地として中国の信頼性に疑問符がついた。日本はアフリカなどの代替地や代替材料を官民で開拓・開発し、中国への依存度を下げた。半導体素材で同じような事態が起きないか懸念される。
日本政府は5月末、韓国から輸入する水産物の検疫を6月から強化すると発表した。衛生管理の強化を表面上の理由に掲げたが、11年3月の東日本大震災後、韓国が続けている福島など8県産水産物の輸入規制への事実上の対抗措置だった。世耕弘成経済産業相は1日、今回の措置や根拠を説明する見通しだ。
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