今年も強かったパ・リーグ 格差生んだ「比較優位」
野球データアナリスト 岡田友輔
15年目を迎えたセ・パ交流戦が終わった。今年もパ・リーグは強かった。58勝46敗4引き分けと勝ち越し、ソフトバンクが8度目の頂点に立った。パの勝ち越しは14度目、優勝チーム(最高勝率含む)が出るのは12度目だ。ここまで同じような結果が続くと偶然とはいえない。何が両リーグの格差を生んでいるのか。
もちろん要因はひとつではない。1998年の松坂大輔(現中日)以来、ドラフトの目玉選手の多くがパの球団に入ったこと、近鉄消滅に端を発した球界再編騒動をきっかけとした経営努力、ソフトバンク、楽天といったIT企業の参入でデータ活用が進んだことなどが相まってリーグの底上げにつながったのは間違いない。
本稿ではグラウンドレベルに絞って考えてみよう。今年の交流戦のデータをみると、2つの違いが目に付いた。まずは打者の長打力だ。外野まで飛んだ飛球のうち、フェンスを越えた割合をみると、パは10.1%、セは8.4%だった。つまりパは10本に1本が本塁打になるのに対し、セは12本に1本しかならない。パワーではパの打者に一日の長がある。
これは指名打者(DH)制の有無が一因だろう。DHのあるパでは野手8人のほかに打撃専門の強打者が各チームにいるが、セにはいない。パ本拠地の試合になるとセはレギュラーより力が劣る代打の1番手クラスがDHに入ることになり、これだけで攻撃力に差が出る。交流戦ではパのDHが11本塁打を放ったのに対し、セは5本にとどまった。
■DH制が生む複数の選択肢
もうひとつの差は守備力だ。本塁打を除く打球を野手がどれだけアウトにしたかを示すデータをみると、パの7割5厘に対し、セは6割9分3厘だった。一見小さくみえても、積み重なれば無視できない違いになる。
DH制は選手編成の選択肢を増やす。外国人やベテランがDHに回ることで、出場できる野手が1人増える。ここに守備の名手や動きのいい若手が入れば、守備力を最大化できる。もちろんDH制がないセ本拠地の試合では攻撃重視か守備重視かの選択を迫られることになるが、複数の選択肢があるのは悪いことではない。例えば普段はDHに入っているソフトバンクのアルフレド・デスパイネが左翼を守る代わりにベンチスタートになるとしても、それは4番クラスの代打が控えているということだ。
投手が打席に入るセの野手は打力、守備力ともそこそこ以上が求められる。しかし器用な万能型は得てして小粒になりがちだ。かたやパでは打つだけ、守るだけという一芸型でも活躍の場が得られる。DH制はチーム編成や選手起用の幅を大きく広げる。代打起用による降板がなく、日々強力打線を相手にする投手のレベルアップにもつながる。大リーグの交流戦でも2017年まで、DH制を採用しているア・リーグが14年連続で勝ち越していた。
丸っこい体形から本塁打を量産している西武・山川穂高などはセでは指名しにくいタイプだろう(念のため付け加えると、山川の一塁守備は決して下手ではない)。大谷翔平(現エンゼルス)の投打二刀流も守りの負担がなく、起用に融通が利くDH制でなければあれほどスムーズにはいかなかったはずだ。
イギリスの経済学者デビッド・リカードは、経済の各主体が最も得意とする分野の生産に特化することで生産力が高まり、市場全体がより大きな利益を享受できる「比較優位」を説いた。DH制は各選手が得意分野に特化することを可能にし、リーグ全体のレベルを向上させる。今季は日本でも先発投手が短い回を担う「オープナー」が散見されるなど球界の分業は一段と進む。正直なところ、プロの打者とはいえないセの投手の打席に見るべきものは感じられない。セ・パ格差是正への一歩として、セもDH制の導入を検討してみる価値があるのではないだろうか。