アテネ発 枠超える表現 パパイオアヌー、初来日公演
文化の風
アテネ五輪の開会式と閉会式を演出し、演劇や美術、ダンスとジャンルを横断して活躍する世界的アーティスト、ディミトリス・パパイオアヌー。その初来日公演が7月5、6日、ロームシアター京都(京都市左京区)で開かれる。2017年初演の代表作を上演。ジャンルも時代も跳び回るような自由な表現が展開する。
初演以来、世界30以上の都市で上演した「THE GREAT TAMER(偉大なる調教師)」。モノクロのビジュアルと、鍛え上げたダンサーたちの静かな動きを組み合わせ、独自の世界が繰り広げられる。
光を抑えた舞台は傾斜のついた黒のステージ。登場するのは黒の衣装に身を包む、あるいは裸のダンサーたち。どちらかと言えば力の抜けたゆったりした動きだが、時に静止し、時に急に動き出す。その動きだけで時間が伸びたり縮んだり、重力が弱まったりと、観客は時間と空間を自在に操られているような感覚にとらわれる。
五輪演出で注目
パパイオアヌーは五輪の開閉式の演出で世界的に注目された。さらには18年、故ピナ・バウシュが率いた世界屈指のダンスカンパニー、ヴッパタール舞踊団に、ピナ・バウシュ没後初の新作を振り付けしたことでも話題になった。今公演を企画したプログラムディレクターの橋本裕介は「ピナ・バウシュ、ウィリアム・フォーサイス以降、正統派でスケールの大きな作品を生み出せる稀有(けう)な存在。現代舞台芸術の最重要人物」と断言する。
1964年、ギリシャ・アテネに生まれたパパイオアヌーは当初、画家を志した。ダンス・舞台芸術と組み合わせた複合的な作品の制作をきっかけに活躍の場を広げた。欧州の歴史の原点とも言えるギリシャを拠点とするだけに、西洋古典芸術への関心は高い。
今作に関するインタビューでは「古典を心から愛しているのです(中略)古典芸術を再発見したい」「ノスタルジーに浸るのではなく、記憶の中の断片から、新たな意味と調和の感覚をつかみ取りたい」と発言している。
絵画や映画融合
今作はダンサーが静止した瞬間が、黒いステージをカンバスに見立てた絵画のようにも見える。エル・グレコ、レンブラント、ボッティチェリらの絵画や映画の場面を思わせるシーンも所々に挿入する。「ルネサンス、表現主義、シュルレアリスムも使っています。元は画家なので、視覚的な連想で遊びたいのです」とも話す。
古典芸術が主題かと思えば、スタンリー・キューブリックが監督したSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」を連想させるように宇宙飛行士も登場。全編を通して美術史、人類史をたどるように多くのイメージが詰め込まれる。
ダンサーの動きに着目すると、手品やサーカスを思わせるシーンなど意表を突く驚きがある。観客が身体感覚を更新されるような動きに満ちている。
演劇やストリートダンスなど様々な背景を持つ出演者たちの動きだけを注視していても上演の2時間弱は瞬く間に過ぎていく。演劇、美術、ダンスいずれの要素も豊かに含みつつ、そのどれでもない今作。ダンス批評家の竹田真理はパパイオアヌーを「身体表現にとどまらず、神話や歴史、美術、文化の豊かさを表現できる。舞台芸術の総合性を体現する作家」と高く評価する。近年、海外アーティストの来日機会が減る中で、今まさに見るべき最先端の作品を見られる貴重な公演だ。
(佐藤洋輔)
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