村上春樹、文学とジャズのセッション FM公開収録で
村上春樹が自作小説を朗読し、ジャズの大御所と語り合い、演奏を楽しむ――。26日都内で開かれた、村上がDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」の公開収録「村上JAM」。これまで村上が作品でつづってきた文学と音楽の共鳴が、リアルに現れたジャムセッションのようだった。
一時引退していたときに村上が復帰のきっかけをつくり、親交の深いピアニスト、大西順子が音楽監督を務めた。クラリネットの重鎮、北村英治や世界的なサックス奏者、渡辺貞夫が一堂に会してセッションを披露。合間にはホストの村上が軽妙なトークをはさんで、約150人の観客を沸かせた。70歳の村上は北村と健康の秘訣を話し合い「ぼくも(北村と同じ)90歳までがんばります」と笑顔。渡辺とは名テナー奏者、スタン・ゲッツ談議に花を咲かせた。
にぎやかな雰囲気から一変、終盤ではスポットライトに照らされた村上が短編集「夜のくもざる」から「天井裏」を朗読。小人の「なおみちゃん」を巡る謎めいた物語だ。朗読後は「ぼくの小説を書く要素はリズム、ハーモニー、インプロビゼーション(即興)。文章を書くようになって、楽器を弾くのと同じような喜びが得られた」とジャズと小説の密接なつながりを口にした。
2018年8月に始まった「村上RADIO」は回を重ね、村上の肉声や素顔が音楽を通して身近になってきた感がある。18年に共著で「村上春樹の100曲」を刊行した評論家の栗原裕一郎氏は「音楽を軸に作品を読むと、文芸評論では見落とされがちな視点に気づく」と話す。初期の主題となる主人公の「喪失感」は、全共闘の時代精神と重ねて考えられてきたが、それ以上に「ビーチ・ボーイズなどのミュージシャンによって1960年代に奇跡的に体現され、70年代には潰えていくことになる価値観への共振にあると感じる」と指摘する。
公開収録の模様はTOKYO FM(全国38局ネット)で8月25日と9月1日午後7時から放送される。
(桂星子)