金とビットコイン同時急騰、ドル離れ映す
代表的な仮想通貨(暗号資産)ビットコインの価格が1万2000ドルを超え、金は1トロイオンス1400ドルの大台を突破して、仮想通貨と金が同時に上昇している。
米金融政策が利上げから利下げ方向に転換中で、米中貿易摩擦とイラン発の地政学的リスクが市場混乱を誘発している時期ゆえ、ビットコインも「安全資産」として買われているとの見解もある。
とはいえ、一晩で2000ドル近く乱高下する仮想通貨が「安全」といえるか、との疑念も根強い。金とビットコインの同時急騰は安全性を求めるマネー流入というよりドル離れを象徴する現象と位置づけられよう。
ドルと金利は下落傾向で、米国大統領の発言で大きく振れるドルの基軸通貨としての信認も薄れつつある。そのような市場環境で、金もビットコインも「無国籍通貨」ゆえソブリンリスクとは無縁である。ゆえに中国やロシアなどが外貨準備として公的な金の保有を増やしている。
では、投資対象として、金とビットコイン、どちらが良いか。
価値の保存手段としては、3000年の歴史に裏付けされた金に軍配があがる。しかし、価値の交換手段としては、ブロックチェーンの技術に裏付けられたビットコインに代表される仮想通貨の便宜性が勝る。
市場の流動性は現物や先物、上場投資信託(ETF)、デリバティブと多岐にわたる金に対して、仮想通貨は先物市場に上場されたが、取引量はいまだ「発展途上」だ。一部の大学基金などが試し買いを入れているとの情報も流れ、長期的には機関投資家の本格参入にも現実味はある。
ビットコインを対象にしたETFの可能性も話題になってきた。筆者は金ETFの商品開発からニューヨーク(NY)初上場までの過程に直接的に関与して、米国証券取引委員会(SEC)の許可を得るため現地当局に日参した経験がある。そのとき、最も厳しく問われたことが、トラッキングエラーとマーケットメーカーの数であった。
前者は、現資産とETF価格の乖離(かいり)が最低限に抑えられ連動するか否かということ。後者は、正確に連動するために、常にETFの売値と買値を唱える複数のマーケットメーカーの存在が必須ということ。
その点で、仮想通貨価格はボラティリティー(変動率)が激しすぎて、正確な連動が現状では望めまい。それゆえ、ETFではなく、仮想通貨デリバティブの商品開発が進行中だ。
なお、市場参加者も異なる。仮想通貨は2000年以降に成人したミレニアル世代が中心だが、金は中高齢者が多く、最近は積立型商品を通じて若者の参入が始まった段階だ。
足元では、筆者は、大阪の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)での米中トップ会談の結果で、金とビットコイン価格の反応に違いが出るかに注目している。仮に米中貿易戦争の停戦協定が成立した場合、米利下げ観測が後退して、ドル高に振れるだろう。そこで、金は売られようが、ビットコインは同様に売られるのか。売られなければ、ビットコインがいわゆるトランプリスクから独立しているのでリスク分散効果ありと認知される可能性があろう。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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