神戸のKAVCが連続公演 気鋭の7劇団、全国へ
文化の風
神戸アートビレッジセンター(KAVC、神戸市)が関西の気鋭劇団を集めた企画「KAVC FLAG COMPANY」を開催中だ。若手から中堅を軸とする7劇団が来年2月まで同センターで順に公演する。設備の整った劇場での上演機会を提供するとともに、気鋭劇団の存在を全国に知らしめる。
6月7~9日に先陣を切ったのが匿名劇壇による新作「大暴力」。1分から数分程度の断片的な30の短編を連ね、1つの場面が終わると役者は舞台上で早変わりのように別の役へ。
奔流のようなスピード感でイメージが喚起され、役が変わるごとにステージに脱ぎ捨てられた衣装からは過ぎ去った場面の余韻も漂う。声高なメッセージはないが、暴力にまつわる視点が個々の観客の心中に浮かび上がる70分だった。
劇団の稽古風景が繰り返し登場するなど、虚実の境を曖昧にする得意のメタフィクションも用いた凝った構造の作品だ。一方で持ち前の笑いのセンスや映像、音楽などポップな意匠が観客を身構えさせない。
自主公演に比べ、予算面で余裕がある。衣装や映像に外部スタッフを起用するなどは劇団にとって初めての試み。舞台に厚みを持たせた。「(KAVCの)広いステージにも耐える力を持った、今後の足場になる自信作ができた」。主宰で作・演出の福谷圭祐は手応えをつかんだようだ。
中心は30歳前後
匿名劇壇を含め参加劇団は中心メンバーが30歳前後の7劇団。マイムやダンスなど複数のジャンルをこなせる「壱劇屋」、シチュエーションコメディー中心の「THE ROB CARLTON」、静かな会話劇の「プロトテアトル」など作風やキャリアも様々だ。
「いずれも独自性が強く、劇団同士の横のつながりは強くないのに世代としてまとまって見える。関西の面白い劇団を上から選んだと言っても異論は出ないかもしれない」。舞台芸術プログラム・ディレクターのウォーリー木下は話す。
かつての関西演劇ブームの残り香も薄れ、劇場閉鎖が相次ぐ中で演劇に身を投じた世代。先輩劇団からさほど影響を受けずに「(カフェなど劇場ではない場所を使うなど)公演形態も含め手探りで、独自の表現にたどり着いた劇団が多いのではないか」と、コトリ会議の若旦那家康は見る。
全国的な知名度はこれからの存在だが、ももちの世界で作・演出を手掛けるピンク地底人3号が劇作家協会新人戯曲賞、コトリ会議の山本正典がせんがわ劇場演劇コンクールの劇作家賞を受賞するなど関西の外でも評価を高めつつある。
今後の上演予定作品からは各劇団が自主公演では実現できなかったテーマや演出に挑戦し、今後の活動への足がかりにしようとする意気込みも感じられる。
ももちの世界は来年2月に登場予定。作家自身の経験をもとにした会話劇が得意だが、新たな作風の舞台にするという。KAVCがある新開地のリサーチも行うほか、地域住民らも参加する作品と連動した町歩きを企画するなど「社会に開かれた(既存の作品とは)違う手法に挑みたい」と、ピンク地底人3号は話す。
劇評で外部視点
KAVCは今回の特設サイトに、作家や批評家による劇評も掲載する予定。外部の視点を広く取り込んで作品に光を当て、実力ある関西の劇団の情報を全国に届ける。
匿名劇壇の「大暴力」は東京を拠点とする批評家の佐々木敦らが劇評を執筆。佐々木が自身のツイッターで観劇後に「初見でしたごめんなさい!と謝りたくなるくらい面白かった」と投稿するなど効果も上々だ。
若手劇団の育成は兵庫県伊丹市のアイホールが若手に上演機会を提供する「break a leg」を7年前から展開。應典院やウイングフィールドなど大阪市の民間小劇場で演劇祭形式の公演も開いてきた。今回参加の7劇団も多くがこうした企画で成長してきた。もう一歩、「関西のFLAG(旗)として」(ウォーリー木下)全国に届く飛躍が期待できそうだ。(佐藤洋輔)
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