サンウルブズ、成熟できず 代表とのはざまで苦戦
スーパーラグビー(SR)、サンウルブズの今季は厳しいものだった。9月開幕のワールドカップ(W杯)に臨む日本代表との兼ね合いで陣容は手薄になり、最下位に沈んだ。2021年にSRから除外されることも決定。見通しは明るくないが、日本のラグビー界のためには来季の戦いも変わらぬ重要性を持つことになる。
指揮官の「矛盾」が、今季の苦しい立ち位置を物語っていた。ジャガーズ(アルゼンチン)とのシーズン最終戦に敗れた2日後の6月17日。トニー・ブラウン・ヘッドコーチ(HC)は「タフなシーズンだった」と総括したうえで、こう語った。
「サンウルブズはあくまで(日本代表の)W杯の準備のために選手を起用するチームだ」。設立の目的は確かに代表強化だったが、ここまで言い切るとプロクラブの存在意義を否定することになってしまう。
開幕前、ブラウンHCは正反対の発言をしていた。「全試合で勝ちにいく。タイトルを狙うくらいの気持ちでいきたい。サンウルブズは代表のためのツールではない」。2つの発言の整合性を問うと、HCは苦笑いして答えた。「選手の入れ替えは、自分のコントロール外だ」
「入れ替え」とは、サンウルブズと日本代表の間の選手の移動を指す。ジェイミー・ジョセフ代表HCは2月から代表候補による別チームを編成。サンウルブズと別に強化試合を行ってきた。
当初は代表の主力もSRである程度の実戦を積む方向で、開幕前に発表されたサンウルブズのメンバーにはそのほとんどが名を連ねた。
しかし、故障者の続出もあってジョセフHCは軌道修正。結局、WTB福岡堅樹やナンバー8姫野和樹ら代表組10人は、サンウルブズに合流することもないままシーズンを終えた。他の代表の主力も、数試合だけサンウルブズの軒先を借りては去って行くの繰り返し。
■「選手が出たり入ったりで難しく」
その結果、今季のサンウルブズの登録選手は70人と例年より10人以上増え、参入4年目で最多に膨らんだ。出場した選手だけでも59人いて、他のチームより大幅に多い。
これでは選手間の連係を磨き、集団として成熟するというのは難しい。日本代表のコーチを兼ねるブラウンHCも、シーズンの半分でサンウルブズを離れていたからなおさらだ。
大黒柱のSOヘイデン・パーカーは指摘する。「シーズンの序盤はいいパフォーマンスだったが、(4月以降に)毎週、選手が出たり入ったりするようになると難しくなった」
その言葉通り、シーズン序盤はむしろ好調だった。3月には強豪のチーフス(ニュージーランド)、ワラタス(オーストラリア)からアウェーで白星。過去3年間はホームでの勝利しかなかったから快挙だった。
その後にメンバー入れ替えの影響が出る。連動性が必要なスクラム、ラインアウトのセットプレーは崩壊。チームの規律も乱れ、焦りから反則が相次いだ。10分間の一時退場となるイエローカードはリーグ最多の10枚。過去3シーズンは平均4.7枚だったから、これだけでも戦況はかなり苦しくなる。1年目から毎年1つずつ増えてきた白星は今年、初めて減少。2勝14敗の最下位に沈んだ。
成績不振に加え、多くの主力が合流しない異常なシーズンだったのに、その理由が発信される機会も少なかった。ファンはなおさら置いてけぼりをくらった感じだろう。当初の方針が変わった段階で、ブラウンHCやチームのフロントから丁寧な説明がほしいところだった。
苦戦を強いられたサンウルブズだが、自国開催のW杯に臨む日本代表にとっては恩恵もあった。最大のメリットは、代表の当落線上とみられていた選手に十分な試合機会を与えられたこと。
ブラウンHCはFB山中亮平の名前を挙げ、「彼らにタフな試合の機会を与えることができたし、とてもいいプレーをしてくれた」と称賛した。山中も「キックからのカウンターや、ボールキャリー(ボールを持ってのラン)が伸びた。SRで自信がついた」と胸を張る。
山中に加え、同じくサンウルブズで奮闘したプロップ山下裕史、SH茂野海人らも今月発表された代表42人の中に入り、W杯出場の可能性が広がった。
戦い方の幅を広げる効果もあったようだ。ブラウンHCは「サンウルブズで試した新戦術を代表でも導入したい」と強調する。
代表と違う組み方に変えたこともあって苦戦が続いたスクラムも同様。長谷川慎・代表スクラムコーチは「今まで僕の考え方だけでやっていたので、違う考えが入ってきて参考になる部分はある。その長所を代表にも少し取り入れる」と話す。
試合前の1週間の調整法でも新しい試みを導入。プレーとの相関関係をデータで検証してきた。こうした取り組みの成果は、代表に還元され、W杯で生かされることになる。
今季のサンウルブズにはもう一つの激震もあった。3月、SRの主催団体サンザーが21年以降のサンウルブズの除外を発表。来季がひとまず最後のシーズンとなる。
国内トップリーグのスケジュールが変わり、SRのシーズンと重複。2つのチームに所属する選手がサンウルブズに参加しにくくなる逆風もある中、参加に意欲を燃やす選手もいる。
リコーに所属するナンバー8松橋周平は「選手としてはこういう舞台で成長したい思いがある」。トップリーグを戦いながら、部分的にでもサンウルブズでプレーしたいと話す。こうした選手や応援を続けるファンに対し、チームは来季のあり方や、目指すところをいち早く示す必要があるだろう。
■ラストシーズン、未来にどうつなぐか
折しも、日本のラグビー界は岐路に立たされている。国際統括団体ワールドラグビーは19日、創設を計画していた新世界大会「ネーションズ選手権」の廃案を決定。日本代表にとっては、強豪国と年間十数試合戦えるチャンスが消えた。自国開催のW杯が終わった後は、強豪国を招いてテストマッチを行うことも今より難しくなる。
日本ラグビー協会も再出発のタイミングを迎えた。29日に就任予定の森重隆会長ら新執行部は、サンザーとの連携を深める方針を持っている。今後の代表強化のために、南半球の4カ国対抗戦「ザ・ラグビー・チャンピオンシップ」参入や、SRへの再参戦などを目指すことになりそうだ。
「そのためにはW杯での日本の成績に加え、来季のサンウルブズの戦いもカギになる」と協会の次期幹部の一人。今季の反省も踏まえ、"ラストシーズン"をどう未来につながるものにするのか。サンウルブズや協会が早く明確な指針を示し、動き出す必要がある。
(谷口誠)