NY株最高値接近でも「利下げ」の怪
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が終わる前夜の18日に、ダウ工業株30種平均は米国と中国の歩み寄りを歓迎して353ドル急騰した。19日も、FOMCによる金融政策の緩和方向への転換が確認され38ドル上昇して引けている。
かくして株価が最高値水準に迫っている状況での金融緩和という、異例の成り行きとなった。
市場は緩和への熱烈歓迎モードで先走っているのか。あるいはパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が、やはり、トランプ大統領の執拗なまでの利下げ要求に屈したのか。
まず、今回発表されたFRBによる経済見通しの中のドットチャートでFOMC参加者による2019年末の金利予測分布を見てみよう。中心値2.375%が8人。1.875%が7人。「現在のフェデラルファンド金利(FF金利)水準である2.25~2.5%のレンジが年末まで続く」、つまり「利下げは無し」と見ている参加者と、「1.75~2%のレンジ」、つまり「0.25%刻みの利下げが2回」と見る参加者が拮抗しているのだ。ニューヨーク市場ではこの状況が、スプリット(分裂)と表現された。
米中の貿易摩擦が合意に達すると見る楽観派と、悲観派が、FOMCの中ではっきり分かれているイメージが想起される。ドットチャートについては、注目度が高いことにパウエル議長自ら警鐘を発している。米中会談がどうなるか、いまだ分からない状況で金利予測しても詮無いこと、というのが本音であろう。
要はFRBも大阪での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)での米中トップ会談、そして7月の雇用統計、最新の国内総生産(GDP)など主要経済指標の結果を測りかねているのだ。
それでも、ニューヨーク市場は連日の株高を演じた。米中合意なら7月利下げの切迫感は薄まる。それでも、貿易摩擦の改善と利下げを見越した「いいとこ取り」で市場は動いている。
FOMCで年内の利下げ無しと見ている8人は、水平線上にバブルの雲を目視しているのだろうか。あるいはここで利下げに動いてはトランプ大統領の思うつぼと考え、政治的な独立性を標ぼうする中央銀行の矜持(きょうじ)を見せつけたのか。景気が悪くなれば米中貿易摩擦ではなくFRBがスケープゴートにされかねない、との危機感も伝わってくる。
さらにFRBの内部事情も揺れている。セントルイス連銀のブラード総裁が、今回のFOMCで利下げ決定を主張したのだ。
「総じて利上げはFRBが主導するが、利下げは市場が主導する傾向が強い」とマーケット内では語られる。緩和を催促する市場に、FRBが応えることからバーナンキ・プット、イエレン・プットなどと言われてきた。しかしパウエル・プットは、結局トランプ・プットと言われかねない。FRB内部がスプリット状態にあるだけに、トランプ大統領が実質的に最後の1票を握りかねない情勢である。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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