DeNA、進む「IT野球」 データ分析で投打強化
4月に10連敗して出遅れたDeNA。他球団に引けを取らない戦力を考えれば予想外のシーズン序盤となったが、最大11あった負け越しを5まで減らし、最下位に沈んでいた一時の低迷から脱しつつある。チームが踏ん張っている裏で近年、球団が推進しているのがIT戦略。データ分析を担当するチーム戦略部が後方支援し、現場との両輪で強化を進めている。
■金融工学・統計学の修士が解析担う
チーム戦略部ではゲームアナリストと呼ばれるスコアラー陣に加え、リサーチ&デベロップメントグループを2017年に新設。現在、同グループには4人が在籍する。金融工学や統計学の修士を持つ精鋭たちで、これまでプロ野球界では目にしなかった人材だ。
球団の頭脳ともいえる彼らはあらゆるデータを解析して監督やコーチ、選手らに提示。パフォーマンスの向上や試合での采配に一役買っている。今ではほとんどの球団で設置されているトラックマン(弾道測定器)は15年から運用され、回転数や回転軸などの投球のデータを数値化。データは量が多いほど精度が増していくもので、チームへの浸透度も深化してきた。
この手のものは若い選手ほど関心が高く、野手より投手が価値の高さを認識している。チーム戦略部の壁谷周介部長によれば、4年目の今永昇太はアナリストが丁寧に説明しているうちに自然とデータを読み取れるようになったという。
そのエースは昨季4勝11敗にとどまった悔しさを糧に今季は見違えるような投球を続け、5月には月間MVPを初受賞。現在リーグトップタイの7勝(3敗)、防御率2.07と抜群の安定感でチームをけん引している。七回途中3失点だった14日のソフトバンク戦では千賀滉大との両リーグ防御率トップ同士の対決で投げ勝っている。
野手陣にもデータ活用の動きが広がる。昨年の秋季キャンプから本格的に導入しているのが米国のブラストモーション社が開発したセンサーだ。バットのグリップエンドに装着すると、スイングの加速度や軌道、体の傾きなど16項目が数値化される。
チーム戦略部が米大リーグのキャンプを視察し、17年にワールドシリーズを制したアストロズなど多くの球団が導入していることから採用。若手を中心に、春季キャンプでは筒香嘉智やホセ・ロペス、宮崎敏郎の主軸のデータも収集した。タブレット端末で打撃の映像とデータの両面で確認できる利点がある。
シーズン中は育成の場でもある2軍の練習で定期的に使っており、打撃コーチや選手にフィードバックし、指導に役立てている。昨秋から試している選手はフォームの改善などに着手。佐野恵太や神里和毅、柴田竜拓らは特に熱心で最近は1軍で結果も伴ってきた。
3年目の佐野は今季、シーズン最初の4打席は全て代打出場で4安打。4月4日のヤクルト戦では七回に満塁本塁打を放つ活躍を見せた。2年目の神里は交流戦に入って好調で、11日のロッテ戦ではサイクル安打まであと一歩に迫った。今永が先発したソフトバンク戦で先制弾を放ったのは4年目の柴田だった。目に見える形で若手が成長してきたのは、本人たちの努力に加え、球団の取り組みと無縁ではないだろう。
遊撃手や二塁手が打者に応じて二塁ベースの後方を守るなど米大リーグでは珍しくなくなった大胆な守備シフトもオープン戦から試している。あくまで首脳陣が最終的に判断しているが、アナリストの情報は重要な資料。チームの弱点を補う外国人選手の補強でもデータを参考にしているという。
チーム戦略部を率いる壁谷部長はソニーに入社後、ボストン・コンサルティング・グループを経て12年に公募で球団に入った経歴の持ち主。当時の池田純球団社長に「(野球の)素人でもできることがあるだろう。ITを使って強くすることが君のミッションだ」と抜てきされた。
DeNAが球界に参入した頃はIT化が進んでおらず、「現場の免疫もなかった」。映像をクラウド上で共有するなどの取り組みを重ね、選手やコーチに説明しながら信頼を得ていった。その積み重ねが今のチーム方針にもつながっている。
■データと選手の感覚の融合が大事に
ただ壁谷部長は「データが全てではない」とも話す。田代富雄チーフ打撃コーチのように経験に裏打ちされた指導力のあるコーチもいて、実績あるベテランコーチの言葉は選手に響く。
「選手も最後は感覚なので、そこの部分で会話できることは大事」と壁谷部長。将来的にデータを読み取って選手に伝える役割がコーチにも求められると予想されるが、大事なのは感覚とデータを融合できるかどうか。「アナリストはそのサポートをしていきたい」と語る。
球団は3月にダイヤモンドバックスと戦略的パートナーシップの締結を発表。最新の情報を収集しながらチームに合ったデータ戦略を進める。他球団でもIT分野に力を入れているが、「球団全体が一枚岩になり、考え方が浸透している。我々が勝手にやるのではなく、監督やコーチの賛同を得ながら活動できていることが長所」と壁谷部長。アレックス・ラミレス監督自身がデータを重視している指導者である点でも親和性が高いといえる。
球団の身の丈を考えれば湯水のごとく戦力補強に資金を投じられるわけではない。「どうやって工夫して強いチームをつくるか」というテーマへの挑戦は今後も続く。
(渡辺岳史)