ロックだぜ、弦楽四重奏 センチュリー響 来月公演
文化の風
日本センチュリー交響楽団の首席奏者らでつくる弦楽四重奏が人気を集めている。レパートリーの柱はロックやジャズ。普段のオーケストラとは違った音楽を楽しめるのが魅力だ。7月10、11日には大阪府豊中市の市立文化芸術センターで初の2日連続公演に挑む。
リーダーは数々のオケでコンサートマスターを歴任し、東京音楽大学教授も務める首席客演コンマスの荒井英治。コンマスの松浦奈々、首席チェロの北口大輔、元首席ビオラの丸山奏(現イルミナートフィルハーモニーオーケストラ首席)を加えたカルテットだ。
6月上旬、同センターでのリハーサルに4人が集結。1970年代に隆盛を極めたプログレッシブロック(プログレ)を代表するバンド「エマーソン・レイク&パーマー」(ELP)の「ホーダウン」が鳴り響いた。4人は時に激しく足を踏みならしながら、軽快に音楽を奏でていた。
荒井の「ロック魂」は筋金入りだ。少年時代にビートルズと出会い、ロックにのめり込んだ。キング・クリムゾンやELPなどのプログレを聴きあさり、フリージャズにも親しんだ。バイオリンを弾きながらも「自分の中に反逆児がいて、美しくてきれいなクラシック音楽に反感を持っていた。今もあまのじゃくな部分がある」と笑う。
コンマスを務める傍ら、1992年に「モルゴーア・クァルテット」の結成に参画した荒井。クラシックだけでなく、愛するプログレの曲を自ら弦楽四重奏版に編曲し、レパートリーに加えてきた。その経験を生かし、センチュリー響でもロックやジャズを中心に据えたカルテットを率いる。
荒井は「2つのカルテットで、サウンドは全然違う」と指摘する。「センチュリー響発の四重奏では、自分以外の3人が若い。重厚なモルゴーアに対し軽快でリズム感があり、速いテンポでも演奏できる」という。チェロの北口は「難しい編曲に苦労する部分もあるが、苦労を楽しめるメンバーが奇跡的に集まっている」と自信を見せる。
7月の2日連続公演も挑戦的な演目が並ぶ。初日は「古典と20世紀のポーランド作品」と題しクラシックの曲を披露するが、普通の演奏会とはひと味違う。
古典派の曲はベートーベンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」を取り上げる。荒井は「衝撃的な始まり方など、原初的な叫びのように感じる曲」と、ロックとの近さを強調する。それに女性作曲家のバツェヴィチ、ナチスの強制収容所から生還したラクスら一般にはなじみの薄いポーランドの作品を組み合わせる。
2日目のプログラムの柱はELPの名曲だ。注目すべきは、ELPを代表する大曲「タルカス」だ。荒井はモルゴーアで何度も演奏しているが、今回は「ライブバージョン」として譜面の100カ所以上に手を加えた。「ELP自体がライブを重ねるごとに演奏がうまくなり、アドリブを加えて曲の展開を変えていった」(荒井)。メンバーの演奏技術に信頼を寄せ、さらに高度な編曲をした。
カルテットは2017年から、センチュリー響が指定管理者を担う同センターで公演を重ねている。過去3回とも約200人の小ホールはほぼ満員だった。
楽団の担当者は人気の背景について「メンバーが弾きたい曲を、高度な技術を要する編曲版で演奏するので、真剣味が観客にも伝わっている」と説明する。観客は大半がクラシックを愛好する楽団のファンだという。ジャンルにとらわれない、音楽そのものの魅力が伝わっているようだ。
(西原幹喜)
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