台湾総統選、与党公認候補に現職・蔡氏 予備選勝利
【台北=伊原健作】来年1月に実施される台湾の次期総統選を巡り、与党・民主進歩党(民進党)は13日、公認候補を選ぶ党内予備選で現職の蔡英文総統(62)が勝利したと発表した。中国の台湾への圧力が強まるなか、安定感がある現職の蔡氏に支持が集まった。蔡氏は本選で台湾の独自性を守る路線を掲げ、対中融和路線の最大野党・国民党と争う。香港で高まる反中の機運も、総統選に影響を及ぼす可能性がある。
「台湾を守る責任を果たす」。13日に予備選の勝利を受けて台北市内で記者会見した蔡氏はこう強調した。中国が目指す高度な自治を認める香港型の「一国二制度」による統一も拒否すると表明した。
予備選は独立派を支持基盤とし、中国に対する強硬姿勢を打ち出した頼清徳・前行政院長(首相、59)と蔡氏との一騎打ちで、世論調査で支持率が高い方を選ぶ方法を採用した。頼氏は中盤までリードしていたが、実際に総統になれば中国大陸との経済関係に大きな悪影響が出るとの懸念が党内外で広がった。
台湾では中国大陸から自立しつつ、中国の武力介入を招きかねない独立には慎重な現在の路線を支持する意見が多数派を占める。台湾当局が3月に公表した中台関係に関する世論調査でも、現状維持を求める人は全体の9割を占めた。
こうした中道層の多くが蔡氏支持に回帰したとみられる。勝敗の決め手となった最新の世論調査の支持率は蔡氏が35.6%と、頼氏(27.4%)に約8ポイントの差を付けた。
一方、国民党は7月中旬にも世論調査で公認候補を決める方針で、韓国瑜・高雄市長(61)と鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長(68)の事実上の一騎打ちの構図となっている。
2016年5月に発足した蔡政権は既得権益層に切り込む年金改革や労働者寄りの雇用規制などを手掛けたが、保守派の反発を招いた。政権の「中間評価」の位置づけだった昨年11月の統一地方選では国民党に大敗。支持率でも大差を付けられていた。
ただ、最近は総統選を巡る調査で国民党との差を縮めている。現地の美麗島電子報の5月の世論調査によると、蔡氏の支持率は26.9%と、国民党の候補でトップを走る韓氏に1ポイント差に迫った。
背景には、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が1月に一国二制度による台湾統一の推進を明言してから台湾内の対中警戒感が強まっていることがある。香港では今月に発生した、中国本土に刑事事件の容疑者を引き渡せるようにする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模な反中デモも台湾市民の対中危機感を高め、民進党に追い風になっている。
今後は国民党政権の発足に期待する習政権の出方が注目される。過去の台湾の総統選の前には、中国は台湾への揺さぶりを控える傾向がみられた。台湾市民の対中警戒感を高めれば、民進党側を利する結果を招くためだ。
しかし、トランプ米政権は1月から毎月台湾海峡に軍艦を派遣。台湾へのF16戦闘機や主力戦車などの大型の武器売却を検討しており、台湾側を支援する姿勢を鮮明にしている。習政権が米国に対抗して台湾周辺の軍事活動を活発化する可能性も取り沙汰される。
ネット上での中台双方の世論工作も激化しそうだ。蔡政権は習政権がネットなどを通じて台湾の世論を中国側に傾かせるよう介入していると批判。これを否定する中国側と応酬になっている。