影薄いディープ後継 新種牡馬キズナに期待大きく
東京、阪神両競馬で6月から2歳戦が始まった。ターフにさっそく姿を現した2019年の2歳世代には、新種牡馬による初年度産駒も含まれる。なかでも注目の種牡馬は13年の日本ダービー(G1)を勝ったキズナ(9歳)だ。同馬の父ディープインパクトの後継種牡馬は、現状では目立った成績を残していない。17歳と高齢なディープインパクト自身、19年の種付けをシーズン途中で取りやめるなど不安が多い。頼りになるディープ後継の登場が待ち望まれており、産駒の評判が高いキズナに大きな期待がかかる。
19年に産駒がデビューする新種牡馬は37頭。キズナのほか、同馬のライバルとして13年のクラシック戦線を盛り上げ、同年の菊花賞、14年のジャパンカップ(ともにG1)を勝ったエピファネイア(9歳)や、G1で6勝を挙げたゴールドシップ(10歳)などがいる。14年の天皇賞・秋(G1)に勝利したスピルバーグ(10歳)、日豪のG1で2勝のリアルインパクト(11歳)などは、ディープインパクトを父に持つ種牡馬だ。
■キズナ、種牡馬として上々の滑り出し
レース出走に必要な血統登録をされた産駒の数はキズナが182頭と最も多い。新馬戦が始まった1日以降、4頭の同産駒がデビュー。9日の阪神芝1600メートルの新馬戦でルーチェデラヴィタ(牝、栗東・西村真幸厩舎)が勝ち、今年の新種牡馬の産駒の中央初勝利を記録した。
騎乗した池添謙一騎手は「手先が軽い走りをする。調教から良い動きをしていたし、調教通りならレースでも良いところがあると思っていた。追い出してからの反応も良かった」と話した。種牡馬として上々の滑り出しをみせたキズナだが、今後も期待の産駒がデビューする予定で楽しみは広がる。
キズナ産駒の評判はデビュー前から高かった。日本中央競馬会(JRA)の育成馬が上場される4月のJRAブリーズアップセールでは、キズナ産駒の牡馬がセール史上最高価格となる5400万円で落札された。
現役時代にキズナを手掛け、キズナ産駒も数多く管理する佐々木晶三調教師(栗東)はキズナの現役時代を「オンとオフがはっきりしていた。普段はやんちゃだがレースに行って悪いことを何もしなかった」と振り返る。
キズナはダービーを勝ち、13年のフランス遠征では凱旋門賞(G1)で4着、その前哨戦のニエル賞(G2)では優勝するなど、2400メートルのレースで活躍した。だが「安田記念(G1、東京芝1600メートル)に出走していたら、ベストパフォーマンスをみせられたと思う」と佐々木調教師がいうほどスピードがあった。そんな同馬が長い距離で実績を残せたのはオンとオフがはっきりしていて、騎手との折り合いを欠く馬ではなかったことが大きいと同調教師はみる。
産駒についても「オンとオフをわきまえている馬が多い。こういう面が受け継がれていけば、種牡馬としてもうまくいくのではないか」と語る。佐々木厩舎からは23日にキズナ産駒のリメンバーメモリー(牡)がデビューする予定。当歳(ゼロ歳)だった17年の競走馬市場「セレクトセール」で、9720万円という高値で取引された馬で大きな注目を集める。
現状、ディープインパクトの後継種牡馬は影が薄い。代表的な馬はディープブリランテ(10歳)だが、その産駒はここまでG1に8回出走して未勝利。2桁着順が7回と全く振るわない。中央の重賞勝ち馬もセダブリランテス(牡5、美浦・手塚貴久厩舎)だけだ。種牡馬となって今年の2歳が4世代目のトーセンホマレボシ(10歳)の産駒も重賞勝ち馬はミッキースワロー(牡5、美浦・菊沢隆徳厩舎)しかいない。
種牡馬としてのライバル、キングカメハメハの後継種牡馬と比べても実績は見劣りする。キングカメハメハ後継のロードカナロア(11歳)は初年度産駒から、2頭のG1勝ち馬を出した。18年の牝馬三冠とジャパンC、19年のドバイ・ターフ(G1、アラブ首長国連邦)を制したアーモンドアイ(牝4、美浦・国枝栄厩舎)と、18年のマイルチャンピオンシップ(G1)を勝ったステルヴィオ(牡4、美浦・木村哲也厩舎)だ。2世代目にも19年の皐月賞などG1で2勝を挙げたサートゥルナーリア(牡3、栗東・角居勝彦厩舎)がいる。将来的には種牡馬ランキングでも首位を狙えそうである。
ほかにもルーラーシップ(12歳)が17年の菊花賞を勝ち、18年のジャパンCと19年の大阪杯(G1)で2着に入ったキセキ(牡5、栗東・角居勝彦厩舎)を送り出すなど、キングカメハメハの後継種牡馬の産駒からはG1勝ち馬が続々と出現している。
■ディープ自身の種付けにも不透明感
ロードカナロアとルーラーシップは日本国内で主流となっているサンデーサイレンスの血が入っていない。数多くいるサンデー系の繁殖牝馬相手でも近親交配が避けられ、配合がしやすい。一方、ディープの父はサンデーサイレンス。この違いが後継レースでキングカメハメハが一歩リードした大きな要因である。
いまのところ劣勢のディープの後継種牡馬にとって、19年は非常に重要な1年となる。ディープ自身が首や腰の不安から、19年の種付けをシーズン途中で取りやめた。20年の復帰に向けて回復に努めるが、高齢もあり、今後、これまでのように200頭を超える牝馬に毎年、種付けできるかは不透明。父の代わりとして後継種牡馬への需要は高まることが予想される。
そのタイミングでキズナの初年度産駒がデビュー。加えて、ディープ産駒の牡馬では実績最上位のサトノダイヤモンド(6歳)が19年から種牡馬生活を始めた。この2頭への期待は高い。まずはキズナ産駒の今後の走りに熱い視線が注がれる。
(関根慶太郎)